RAGとは?製造業の図面・技術文書をAIに答えさせる仕組みを現役設計者が解説

2026.08.20

「ChatGPTを仕事で使ってみたが、自社の製品や過去のトラブルについては答えられなかった」
「社内に埋もれた図面や技術文書を、AIで検索できるようにしたい」

その解決策になるのがRAG(検索拡張生成、読み:ラグ)です。RAGは、生成AIに社内のデータを参照させて回答させる仕組みで、製造業でも導入が急速に進んでいます。

この記事では、RAGの仕組み・製造業での活用事例・導入手順を解説します。読み終えるころには、「RAGとは何か、自社で何から始めればいいか」がわかるはずです。

私たちが手がけるクラウド図面管理システム「図面バンク」は、図面や技術文書をAIが解析し、検索できる資産に変えるツールです。RAG活用の土台となる「データ整備」を支援しています。

RAGとは?生成AIに「社内の知識」を持たせる仕組み

RAG(検索拡張生成)の仕組み:質問に対して社内文書を検索し、生成AIが根拠つきで回答する流れ

RAGとは「Retrieval-Augmented Generation」の略で、日本語では検索拡張生成と呼ばれます。

一言でいうと、「AIが回答を作る前に、社内の文書を検索し、その内容にもとづいて答えさせる仕組み」です。

ChatGPTのような生成AI(LLM:大規模言語モデル)は、インターネット上の情報で学習しています。そのため一般的な知識には答えられますが、あなたの会社の図面・仕様書・過去のトラブルは学習していません。

生成AIに社内固有のトラブルを聞いたとしても「それっぽい」回答は返してくれるものの、的を射ない内容だったと感じた方もいるのではないでしょうか。RAGは、この弱点を「社内文書の持ち込み」で補います。

RAGの仕組み:検索と生成の2段階

RAGの動きは2段階に分かれます。

1. 検索フェーズ:質問に関連する文書を、社内のデータベースから探し出す
2. 生成フェーズ:探し出した文書を材料に、AIが回答文を作る

検索フェーズでは、キーワードの一致だけでなく、意味の近さで文書を探す「ベクトル検索」という技術が使われています。「材質変更の履歴」と質問すれば、「材料置換の記録」という表現の文書も探し当てるイメージです。

ポイントは、AIが「検索結果」に基づいて答えることです。回答の根拠となった文書を示せるため、生成AIの弱点であるハルシネーション(もっともらしい嘘)を減らせます。

ファインチューニングとの違い

社内知識をAIに持たせる方法には、AIモデル自体を再学習させる「ファインチューニング」もあります。両者の違いは次のとおりです。

RAGファインチューニング
方法文書を検索して参照させるモデル自体を再学習させる
情報の更新文書を差し替えるだけ再学習が必要
回答の根拠参照元を示せる示せない
コスト比較的小さい大きい

図面や技術文書は日々更新されます。更新が頻繁な社内知識やノウハウを持たせるには、資料を差し替えるだけで済むRAGが向いています。一方、更新のたびに再学習のコストが大きいファインチューニングは向いていません。

製造業でRAGが注目される理由

製造業の知識が社内に散在している様子:共有サーバー・紙のキャビネット・ベテランの頭の中・個人PCに分かれ、必要なときに取り出せない

製造業の強みは、長年の仕事で積み上げた技術ノウハウです。そしてそのノウハウの多くは、文書の形で社内に眠っています。

・図面と、そこに書かれた設計意図
・仕様書・技術標準・社内規格
・不具合報告書・トラブル対応の記録
・見積もりの根拠、工程表、日報

問題は、これらが「探せない」ことです。文書はフォルダの奥やキャビネットの中に、ノウハウはベテランの頭の中にあり、必要なときに取り出せません。ベテランが退職すれば、探し方ごと失われます。

筆者も設計の現場で、過去の類似設計物の報告書を求めて共有サーバーを1時間近く探し回った経験があります。しかも肝心の設計意図は、図面の欄外メモやベテランの口頭にしか残っていない。これが現場の実態です。

RAGは、この「探せない知識」を対話で引き出せるようにする技術です。技術継承の観点からも注目すべきでしょう。

実際、企業でのRAG活用は急増しています。エクサウィザーズが2024年12月に公表した、セミナー参加企業への調査では、RAGを業務で活用している割合は22.1%と、同年5月調査の4.0%から大きく伸びました1

製造業の技術継承とAIの関係は、次の記事でも解説しています。

製造業のRAG活用事例

中小製造業でのRAG活用シーン4つ:不具合対応の検索、社内規格の問い合わせ、見積もり・工程の事例参照、設備マニュアル・保全記録の検索

大手製造業の導入事例

先行する大手では、すでに全社運用が始まっています。

中外製薬は、2024年5月に社内AIアシスタント「Chugai AI Assistant」を公開しました。約7,600人の従業員が利用でき、RAGによる社内文書の検索機能も追加されています2

AGCは、自社の生成AI環境「ChatAGC」にRAGで社内データを連携させ、2024年8月から運用を始めました。従業員は権限の範囲で、社内データにもとづいた回答を得られます3。例えば、開発部門では過去の開発・設計などの技術情報を含めた回答結果を参照できるようになっています。

中小製造業で現実的な4つの使い方

大手のような全社的な基盤を作らなくても、RAGの使いどころはあります。筆者が現実的だと考えるのは次の4つです。

1. 過去トラブル・不具合対応の検索
「この不良、前にもあったよな」という記憶頼みの検索を、対話に置き換える使い方です。不具合報告書をAIに参照させれば、類似トラブルの原因と対策を短時間で引き出せます。

2. 技術標準・社内規格の問い合わせ対応
「この部品の絶縁に必要な最低厚みは?」といった質問に、社内規格を根拠にAIが答えます。新人がベテランに聞く前の、一次窓口という位置づけです。

3. 見積もり・工程の過去事例参照
類似案件の見積もり根拠や工程を探す時間の短縮に効きます。「この形状・材質の加工実績は?」といった質問が考えられます。

4. 設備マニュアル・保全記録の検索
設備トラブル時に、マニュアルと過去の保全記録を横断して答えさせる使い方です。詳しい人がいない夜勤帯でも、自己解決の助けになります。

製造業の生成AI活用の事例は、次の記事で紹介しています。

RAG導入の手順と、つまずきやすいポイント

RAG導入の4ステップ:対象を1業務に絞る、文書をデータ化・整備、ツールを選び小さく試す、使いながら精度を育てる。最大のつまずきはデータの状態

導入の4ステップ

RAG導入は、次の4ステップで進めます。

1. 対象業務と文書の範囲を決める:最初は「過去の不具合事例の検索」など1業務に絞る
2. 文書をデータ化・整備する:対象文書を電子化し、検索できる状態へ
3. ツールを選び、小さく試す:PoC(試験導入)で効果を確かめる
4. 使いながら精度を育てる:質問と回答のズレを見て、文書の追加・整理を続ける

ツールは大きく3つの類型があります。

・グループウェア付属のAI機能(Microsoft 365 Copilotなど)
・ベンダーが構築するRAGサービス
・図面など、特定の文書に特化した管理ツール

一度に全社へ広げようとせず、対象の文書に合ったツールで、効果が見えやすい1業務から始めるのが定石です。

RAGの注意点・限界

導入前に、RAGの限界も押さえておきましょう。

ハルシネーションはゼロにならない
RAGはもっともらしい嘘を減らしますが、なくせるわけではありません。AIの回答に対する最終判断は人が行うことを大前提に運用しましょう。

アクセス権限の管理が必要
機密図面や人事情報は、誰が質問しても答えてよいわけではありません。AGCの事例で「権限の範囲で」とあったように、文書側の権限管理がRAGの前提になります。

作って終わりではない
文書の追加・整理を続けなければ、回答の鮮度は落ちていきます。構築費だけでなく、運用の手間も見込んでおくべきです。

最大のつまずき:AIに「読ませられる」文書になっているか

そして、RAG導入における最大のつまずきは、AIの性能ではありません。データの状態です。

RAGの回答精度は検索の精度で決まり、検索の精度は文書の状態で決まります。ここで製造業特有の壁が現れます。

・紙のままの図面・帳票は、そもそも検索対象にできない
・スキャンしただけのPDFは文字情報を持たず、検索できない
・個人PCのローカルフォルダに散在する文書は、AIから見えない

つまり、これらの文書はRAGにとって「存在しない」のと同じです。AIを入れたのに精度が出ない場合、原因の多くはAIではなくデータ側にあります。

AI検索がデータの問題で「使えなかった」ケースは、次の記事でも詳しく解説しています。

RAG活用は、図面・技術文書の「AIに読ませる準備」から

図面・技術文書をAIに読ませる準備:紙やスキャンPDFの図面をAIが解析し、文字・案件情報・形状で検索できる資産に変える流れ

ここまで見てきたとおり、RAG活用のポイントは「AIを選ぶこと」よりも、文書を検索できる資産に変えることです。

製造業の中核文書は図面です。私たちが手がけるクラウド図面管理システム「図面バンク」は、この「AIに読ませる準備」を支援します。

・登録した図面に製造業特化のAI解析と全面OCRが自動でかかり、図面内の文字で検索が可能に
・見積書・技術文書・不具合記録を図面に紐づけられ、図面を起点にナレッジが集まる
・文字にできない「形の記憶」は、AIの類似形状検索で図面そのものから探せる

「自社のことを知っているAI」への一歩目として、まず図面と技術文書の整備から始めてみませんか。

図面バンクの料金は月額48,000円ですが、初月は無料でお試しできます。詳細を聞きたい方は、お気軽にお問い合わせください。

まとめ:RAGは社内固有のデータを検索・回答できるAIの仕組み

この記事では、製造業におけるRAGについて解説しました。要点は次のとおりです。

・RAGは、生成AIに社内文書などのデータを検索させ、その内容にもとづいて回答させる仕組み
・製造業の知識は図面・仕様書・不具合記録などの文書に眠っており、RAGと相性が良い
・中外製薬やAGCなど大手では全社運用が始まり、活用企業の割合は急増している
・導入はまずは1業務から。最大のつまずきは、AIに読ませられる状態に文書が整っていないこと

RAGは、社内に眠る技術ノウハウを「使える資産」に変える現実的な手段です。その土台となるデータ整備から、まず始めましょう。

  1. 出典:MONOist「RAG普及で加速する製造業のナレッジ活用 技術継承への貢献にも期待↩︎
  2. 出典:Google Cloud 公式ブログ「中外製薬: RAG を用いた文書検索や人財育成、メディカル ライティングなどに生成 AI を活用し、業務効率化とさらなる価値創造を推進↩︎
  3. 出典:AGCプレスリリース(日本経済新聞掲載)「AGC、自社向け生成AI活用環境「ChatAGC」に社内データ連携機能を付与し運用開始↩︎