PLCは時代遅れ?まだまだ現役である4つの理由を現役エンジニアが解説
2025.08.23

「PLCって、もう古い製品でオワコンなのでは?」
最近そんな声を耳にした方もいるかもしれません。SNSや動画では、PLC(Programmable Logic Controller)よりもIPC(産業用PC)のほうがトレンドだという論調も見かけます。
確かに、制御の世界は日々進化しています。しかし、PLCが時代遅れだと言われるのは、大きな誤解です。
筆者はFA業界に10年以上在籍する現役のエンジニアで、PLCを使った装置の設計やソフト開発の経験もあります。現場での経験や業界関係者とのやりとりから、今なおPLCは第一線で活躍する制御機器であることを実感しています。
この記事では、「PLCは本当に時代遅れなのか?」という疑問に対し、まだまだ現役で使われ続ける4つの理由を解説します。
🙍♂️「PLCに関わる仕事をしたいが、今後斜陽産業になるのではないか」
👨💼「PLCを使った装置を作っているが、今後は大丈夫なのか」
このような不安を抱えている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
PLCが時代遅れであるという風潮
こうした風潮の背景には、製造業インフルエンサー・ものづくり太郎さんの以下のような動画の影響もあるでしょう。
これらの動画では、PLCに代わる制御装置としてIPC(Industrial PC、産業用PC)を取り上げ、以下のようなポイントが語られています。
✅複雑な制御はIPCの方が得意
✅制御の中心は、PLCからIPCに移行していく
✅ソフトウェアとオープン規格によって、制御ソフト構築が容易になり、ラダープログラム(PLCで使われる主な言語)は廃れてゆく
動画ではPLCの存在は全否定せず「すみ分けが続く」としながらも、IPCですべての機器を統合制御する方式が今後主流になると主張しています。
確かに、IPCは装置全体を統合的に制御できる点で優れています。半導体製造装置のように多軸制御や高精度が求められる装置では、IPCのメリットが活きる場面も多いでしょう。
とはいえ、筆者はその潮流はあくまで一部の領域のものと考えています。現実の工場現場では、PLCは今なお主力の制御機器として広く使われています。
PLCが今後も工場や装置の制御機器として使われ続ける理由は、次の4つです。
①PLC市場自体が拡大傾向
②設備の置き換え需要がある
③信頼性が高い
④多軸制御や周辺機器との通信に対応するモデルがある
それぞれ解説していきます。
PLCが時代遅れではない理由①:PLC市場自体が拡大傾向
以下の画像は、PLCのグローバルの市場規模をグラフにしたものです。

グローバルのPLC市場規模は、2015年の11,883億円から、2022年の12,870億円となり、7年間で約8.3%の成長が見込まれています。
調査時点は2021年と少し前の結果ではありますが、PLC市場は拡大傾向で、成長産業と言えるのです。
この成長の背景には、以下のような要因があります。
・人件費の上昇による自動化ニーズの高まり
・先進国を中心とした労働力人口の減少
・新興国での工場建設や生産設備の導入
PLCはこうした底堅い自動化ニーズを支える「現場の制御機器の主役」として今後も必要とされているのです。
PLCが時代遅れではない理由②:設備の置き換え需要がある
工場設備の多くはPLCを使って制御されています。そして、設備は一定のタイミングで更新されます。このとき、同じPLCメーカーの後継機種への置き換えが選ばれるケースが多くみられます。
なぜなら、設備の稼働は「故障しない、止まらないこと」が最も重視されるからです。
・実績のあるメーカーのPLCなら、不具合のリスクを最小化できる
・新技術よりも「工場が止まらないこと」の方が優先される
・既存の設計資産(プログラムや配線、制御盤設計)を活かせる
IPCや他社製品への乗り換えは、新たな学習コストや不具合リスクが伴います。そのため、多くの現場ではPLCを選び続けているという実情があります。
今後も、設備更新にともないPLCの置き換え需要はあり続けるでしょう。
PLCが時代遅れではない理由③:信頼性が高い
PLCが工場の制御機器で選ばれ続ける理由として、信頼性が高く、工場・設備を止めるリスクが少ないことがあります。
・OSが不要でフリーズしない
・振動やノイズに強い専用ハード設計
・長寿命かつメンテナンスフリー
このような特徴が、PLCの信頼性の高さの背景です。
ドイツのIPCメーカーBECKHOFFの製品のように、専用設計でPLCと同等スペックの環境性能を持つ製品も登場しています。
例えば、C6017シリーズはファンレスで、ハードドライブもSSDのため可動部品が無く、PLCに近いハードウェア構成となっています。
しかし、IPCはOS(主にWindows)が入っており、OS自体の不安定さによるフリーズや、セキュリティによるハッキング、異常停止のリスクがあります。
この点でOS起因によるフリーズ等のないPLCは、総合的に見て信頼性が高いと言えるでしょう。
PLCが時代遅れではない理由④:多軸制御や周辺機器との通信に対応するモデルがある
「周辺機器との連携や多軸制御はIPCじゃないと難しいのでは?」
そう思われがちですが、近年のPLCはそのイメージを覆すほど進化しています。
例えば、オムロンの「NXシリーズ」は、EtherCATという産業用ネットワークに対応しており、センサー、カメラ、サーボモータ、ロボットなどさまざまな機器とリアルタイムで接続・制御することが可能です。
参考:オムロン「NX701-□□□□ NXシリーズ NX701 CPUユニット/カタログ」
このPLCは、最大256軸のサーボモータを接続でき、多軸の同期制御も実現します。さらに、PLC本体のEthernetポートで、生産装置の稼働状況などの情報を上位のデータベースに送信することもできます。
イメージとして、下記のような構成が可能となっています。制御だけでなく、データの集積・活用まで含めたスマートファクトリー化がPLCでも構築できます。

「PLC=単なるリレー回路の置き換え機器」というのは、もはや過去の話です。
IPCと同様に、今のPLCもネットワーク接続やデータ活用を前提とした制御装置として進化を遂げています。
(まとめ)日本の製造業現場では、PLCはまだまだ現役です
IPC(Industrial PC、産業用PC)がPLCに変わって設備の制御の中心になる領域は出てくると思います。しかし、日本の製造現場においては、少なくとも今後10年はPLCが中心であり続けると筆者は考えています。
理由は次の4つです。
①PLC市場自体が拡大傾向
②設備の置き換え需要がある
③信頼性が高い
④多軸制御や周辺機器との通信に対応するモデルがある
むしろ、制御設計の現場における現在の課題は「PLC技術者が足りない」「制御盤設計のリソースがない」といった人材不足のほうです。
✅制御設計のトレンドや海外の最新動向はもちろん重要
✅しかし目の前の現場課題は、今すぐ動けるPLC技術者の確保やサポート
PLCが時代遅れかどうかを気にするよりも、今の設備に向き合い、止まらない設備を目指しながら、海外の最新トレンドも入手していくのがちょうどいい温度感だと思います。
将来IPCへ移行する必要が出たら、そのときに備えればよいでしょう。今はPLCを武器に、ものづくりの現場に貢献していくのが建設的ではないでしょうか。
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