紙図面の効率のいい整理方法
2024.04.09
紙図面は今までの業務の成果ともいえる技術資産で、会社の歴史そのものいえる大変貴重なものです。しかし、適切な整理が行われず、宝の持ち腐れになっていることも多いのではないでしょうか。ここでは、紙図面の保管法、保管・廃棄の基準、紙図面の電子化について考えてみたいと思います。
紙図面の現状
ここでは、紙図面の現状について考えてみます。
紙図面とは
紙図面とは文字通り「紙に書かれた図面」のことです。製造業という業種が発生した当初から存在し、歴史の長いものです。また、電子化された図面とは違いコンピュータによる管理には適しておらず、主に人手による管理に特化しています。
一方で、その歴史が長いために、その企業の技術の蓄積が「紙図面」という形で行われている場合も多くあります。また、その図面の内容もデジタル技術の発達していなかった時代の様々な工夫がみられ、大変勉強になる場合もしばしばみられます。
このため、特に紙図面の蓄積の多い会社では、この「技術資産としての紙図面」を有効に利用して業務の効率化や、従業員の教育に資すると大変効果的と考えられます。
紙図面の整理
しかし、近年では図面管理はほとんど電子化され、紙図面の入り込む余地はほとんどありません。また、図面を眺めるだけではなく、実際にCAD上でバラしてみたり、組んでみたりを繰り返すことで、設計技術は向上していきます。そのため、紙図面を電子化して、CAD上で操作が可能なようにしておくと大変便利です。
もっとも、紙図面は膨大な量が保管されており、中には技術資産としての価値の低いものも含まれています。また、紙図面へのアクセスは、プロジェクトファイル(これも紙の書類です)から「図番」を追いかけて行う場合が圧倒的で、電子化された図面のように瞬時に検索が可能なわけではありません。また、技術資産の高い紙図面を見つけても電子化するのに手間がかかります。
そのため、紙図面の整理に関しては「完全に廃棄するわけにもいかず、だからといって積極的に電子化するのにも手間がかかり、手がつけられない」というのが、多くの企業の現状ではないでしょうか。
紙図面の電子化の基準の例
すべての紙図面を紙図面のままで保管するメリットはあまりありません。そのため、例えば事業を撤退した場合の図面に関しては、依然として顧客で使用されている製品の修理やメンテナンスに必要な図面だけを電子化しましょう。
事業を継続している場合でも、製品の市場におけるライフサイクルを考慮して、適宜保管する紙図面のチェックを行いましょう。また技術革新により、メカの機構や制御方法が大きく変わっているものについても、電子化の必要はありません。
ただし、ユニークなメカ機構や制御方法、すでに標準部品として使われているもの、あるいは自社のスタンダードとなっている製品、ヒットした製品の図面は、積極的に電子化していきましょう。これらの図面は今後も長く使われていく可能性が高く、技術資産としての価値が高いからです。
また、リピートオーダが期待できるものや、その製品が市場において自分のところでしか作っていない「オンリーワン製品」の場合にも、積極的に電子化しておきましょう。特にオンリーワン製品の場合には、どんなに市場が小さくても必要としている人がいるわけですから、図面を電子化し、需要にこたえる必要があります。
紙図面整理の難しさ
こうしてみると、紙図面の整理は「技術資産としての価値があるかどうか」で判断するべきと言えるでしょう。つまり、技術資産としての価値が高いものについては積極的に電子化し、そうでもないものは紙図面として保管する、そして、価値のないものについては廃棄する。ということになります。
しかし、その図面の技術資産の価値が高いかどうかは普遍的な物差しがありません。金融資産であれば「利回り」や「投資効率の指標」などで判断できますが、技術資産としての価値判断は、その企業の経営方針や、市場の動向などによっても変わります。
また、技術資産としての価値がないと思われている図面であっても、フィルムカメラやカセットテープ、アナログレコードのように、市場が「リバイバル」することも考えられます。多くの場合、その図面に技術資産としての価値がどれくらいあるかというのは「市場」が決めるということになります。
そのため、現実には古い紙図面であっても、できるだけ廃棄は避け、可能な限り整理して保管しておく必要があります。そして、市場の動向を見ながら機敏に電子化を行い、紙図面を「技術資産」に変えていくことが望まれるのです。つまり「マーケットオリエンテッド」の経営の観点を持たないと、古い紙図面を効率よく利用することは難しいといえるでしょう。
「自社の製品の売れ筋は、今、何なのか?自社の経営資源(紙図面を含めた図面)で対応できないか?」を常に考えながら仕事を進めていきましょう。また、過去のプロジェクトの大まかな「把握・棚卸し」をおこない、できればその情報を会社全体で共有しておきましょう。
紙図面電子化の実際
それでは紙図面の電子化とその実際について見ていきましょう。
紙図面の電子化はまず、電子化の対象となる過去のプロジェクトの選定から始まります。すでに述べたように、どのようなプロジェクトを選定するかは、かなり高度な判断になります。そのため、選定は慎重に行う必要があり、経験の豊富な担当者が必ず選定作業に加わると良いでしょう。また、マーケティング担当や営業担当も加わると尚良いでしょう。
対象となるプロジェクトが決定すると、対象となるプロジェクトファイルにまとめられた部品表から図面を割り出し、図面庫に依頼して、原図を出庫してもらいます。そして、プロジェクトファイルに綴じられた図面のコピーと原図を比較し、誤記や記入漏れがないかをチェックします。
チェックが終了すると、電子化の作業に入るわけですが、極力自動化する必要があります。そのため、スキャナーを使用するのが合理的です。ただし、複雑な組み立て図にはスキャナーを使用せず、部品図のみスキャナーを使用するのが望ましいでしょう。
そして、電子化を行った図面を使って、CAD上で一度組み立て図を組んでみます。通常の設計であれば、組み立て図をまず作り、そこから部品図をバラシますが、ちょうど逆のプロセスになります。
この間、図面の誤認識や寸法の狂いは適宜調整・修正していきます。
最後に、これらの図面を使って、PDMや図面管理システム上の「部品表」を作成します。これにより紙図面が体系的に電子化されますが、思ったよりも手間がかかるのが想像できると思います。また、この作業はすぐには利益には結びつかないことが多いです。
しかし、新人設計者にとっては大変意味のある作業と考えられます。これらの作業が設計業務のOJTとなりますし、新人の時間単価は低いからです。また、守秘義務契約を結んだうえで派遣社員や外注のトレーサー(CADオペレータ)に依頼するのも一つの手です。
(まとめ)紙図面の電子化には思い切った決断が必要です
以上、紙図面の整理とその難しさについて考えてきました。歴史の長い会社は、それだけ技術が蓄積され、おおむね技術力が高いと言えますが、具体的には「図面」という形で残されています。
ただし、多くの場合「紙図面」です。そして、蓄積された紙図面はきちんと整理されていない場合も多く、適切な保管・管理が難しい場合も多々あります。そのため、「手を付けられない」状態で保管されている場合が多いのではないでしょうか。
しかし、紙図面は電子化して実際に活用しなければ、「宝の持ち腐れ」になってしまいます。かといって、すべての紙図面を電子化するのは効率が悪いです。そのため、電子化にはある程度の「思い切り」が必要です。
適切な電子化がなされ、図面の活用が進んだとき、会社全体の効率は大きく向上するでしょう。そして、図面管理システムを導入することで、さらに効率を上げることが出来るのです。
紙図面の電子化を進めるとともに、検索機能の充実した「図面バンク」の導入をお勧めします。お問い合わせお待ちしております。