FMEAとは?初心者にもわかる手順と具体例をやさしく解説

2025.08.03

👤「上司から“FMEAをやっといて”って言われたけど、何をすればいいのかよくわからない…」
👤「FMEAがものづくりの開発でなぜ必要なのか、意義をいまいち理解できずやっている…」

そんなふうに感じていませんか?

FMEA(故障モード影響解析)は、製品や製造工程に潜むリスクを事前に洗い出し、問題が起こる前に設計側で対策を打つための品質改善手法です。

この記事では、「FMEAとは何か?どんな目的で使うのか?どう進めればいいのか?」を、現役設計者である筆者がわかりやすく解説します。

メーカーに入社して1、2年目の新入社員~若手社員に向けて解説しますので、「FMEAを初めて業務で使う」という方でも、この記事を読めばFMEAを実務で使う取っ掛かりとして活用いただけます。

また、中堅社員の方も普段何気なくやっていたFMEAについて、この記事でおさらいし、新人に教える時の参考になればと思います。

FMEAを実施したことのない方でも、「これなら自分でもできそう」というイメージがつかめるはずです。
ぜひ、参考にしてくださいね!

FMEAとは?

FMEAとは、「Failure Mode and Effects Analysis」の略で、日本語では「故障モード影響解析」と呼ばれます。

FMEAを一言で言うと、「“製品のどの部品が、どのように壊れそうか”を事前に洗い出し、“それが起こるとどう困るか”を評価して、対策を考える手法」です。

たとえば製品の中に「モータ」があるとしたら、次のような壊れ方が想像できます。

💥巻線に過大な電流が流れ、焼損する
💥スラスト方向/ラジアル方向の外力により、ボールベアリングが摩耗し、異音が発生する
💥外部から水が端子に入ることにより、ショートする

――FMEAでは、こうした“故障のパターン”をあらかじめ想定し、その影響を評価した上で、設計段階で改善策を検討します。

なぜFMEAをやるのか?目的とメリット

FMEAは、「とりあえず作って、後から不具合を直す」のではなく、「作る前に製品の不具合を予測し、想定外のトラブルを極力なくす」ための手法です。
これにより、後戻りの少ない設計・開発ができ、品質や安全性の向上につながります。

FMEAをやることによって、製品に潜む見えない不具合のタネを設計段階で発見し、トラブルを未然に防ぐことができます。

一般的に、ものを作って起きた不具合を後から修正するよりも、ものを作る前段階(仕様決めや設計の段階)で不具合を想定し、修正するほうが工数が少ないです。
そのため、FMEAをしっかりやっておくことは、無駄な工数を減らし、効率よくものづくりをすることに繋がります。

FMEAの種類

FMEAは大きく「設計FMEA」と「工程FMEA」の2種類があります。

🛠 設計FMEA(D-FMEA:Design FMEA)

製品そのものの不具合、故障について考えるのが設計FMEAです。
例えば、ねじが外れた、モーターが焼損する、部品の強度が足りず変形する……
こうした設計レベルの問題を防ぐための検討を行います。

今回の記事は、主に設計FMEAを扱います。設計FMEAは、設計DR(デザインレビュー)でCADモデルと同時に説明し、設計起因の不具合に抜け・漏れが無いかをチェックするために用いられます。

🏭 工程FMEA(P-FMEA:Process FMEA)

製造工程において、製造不良の内容と、その影響、対策を考えるのが工程FMEAです。
製品の量産工程では、多くの工程があり、どの工程においても製造不良が発生するリスクがあります。

製造工程の不良とは、例えば、
「樹脂成型において成形不良が発生する」
「組立時に異物が混入する」
「シール材の塗布量が足りなくてリークが発生する」
などが考えられます。
工程FMEAでは、このような不良を抜け漏れなく見つけていきます。

FMEAの具体的なやり方

ここでは、FMEAの具体的なやり方をステップごとに解説していきます。

今回は、FMEAで扱う製品を扇風機とします。
扇風機のファンを回すモータには、家庭用の100V単相交流を回転磁界に変えるため、コンデンサが使われています。「モータ駆動用のコンデンサが発火する」という不具合を例に、FMEAを作ってみましょう。

ステップ1.フォーマットを用意する

まずは、FMEAのフォーマットを用意しましょう。

多くの場合、企業はそれまでに作った製品のFMEAが実施されています。設計のリーダーなどに聞いてみましょう。たいていはその企業ごとのフォーマットがエクセルで用意されています。

細かい項目は企業ごとに異なりますが、おおむねFMEAはこのような表になっています。

ユニット部品名称故障モード原因発生メカニズムお客様への影響影響度発生頻度検出難易度リスク優先度(RPN)予防対策対策実施

ステップ2.大まかなユニットごとに分ける

製品を大まかなユニット(構成部位)ごとに分けます。

扇風機を例にすると、
・動力部
・電気回路部
・ファンおよびファンカバー部
・台座部
に分けることができます。

ステップ3.ユニットごとに構成される部品を全てリストアップする

部品は基本的に「もれなくすべて」リストアップします。
ステップ2で分けたユニット単位で考えることによって、抜け・漏れを減らすことができます。

購入部品は、基本的に1つの部品としてリストアップすればよいでしょう。

例えば、扇風機のモータはサプライヤーからの購入品とします。
モータを構成する部品は、
・ステータケース
・巻線
・絶縁部
・ボビン
・ステータコア
・磁石
・シャフト
などがありますが、これらをすべてリストアップする必要はありません。
まずは「モータ」としてリストアップします。

このあたりの考えは企業や製品によってレベル感が異なりますので、実際は設計現場でどう考えているかを先輩や設計リーダーに聞いてみましょう。

ステップ4.故障モードとその原因、影響を洗い出す

1つの部品が起こりうる壊れ方(故障モード)と、なぜその壊れ方をするのか(要因)を思いつくだけ書き出します。

「モータ駆動用のコンデンサが発火する」を例に考えてみましょう。
長期使用によりコンデンサの絶縁が劣化すると、電圧印加時に絶縁破壊が発生します。絶縁破壊によってコンデンサが破裂し、ガス化した絶縁油が発火する壊れ方が考えられます。

これを表に当てはめていくと、
✅部品名称・・・コンデンサ
✅故障モード・・・発火する
✅原因・・・経年使用による絶縁破壊
✅発生メカニズム・・・絶縁破壊後の絶縁油への引火
✅お客様への影響・・・火災による火傷、家財破損
となります。

1つの部品でも複数の故障モードが考えられますので、思いつく限り列挙します。

👤「はじめてのFMEAで、部品がどう壊れるかなんて、自分には想像できない・・・」
という新入社員の方は、類似製品のFMEAを参考にしてみましょう。
扇風機なら他の機種であっても、同じような壊れ方をすることが多いはずです。
類似製品をベースに、類似製品とこの製品の違いを考えてFMEAに取り組んでいきましょう。

ここで網羅的に故障モードとその原因を列挙し、書き出していくことが、技術者としての成長につながります。

ステップ5.リスク優先度(RPN)を評価する

リスク優先度(RPN, Risk Priority Number)は、「影響度×発生頻度×検出難易度」で計算される指数です。RPNが大きければ故障モードの対策優先度が高く、その故障モードに対して真っ先に対策を立てます。

影響度、発生頻度、検出難易度の各項目について見ていきましょう。
各項目は、点数と内容が表で示されています。企業によって10点満点や5点満点など基準は異なるので、FMEAの実施に当たっては各企業の基準を確認しましょう。大体はFMEAのフォーマット内に記載されています。

影響度は「その故障モードが発生したときの人命や周りの物への影響」です。人命にかかわるものは点数が高く、軽症なら点数が低い、という考え方です。

今回は影響度を5点満点とし、次のように表します。

影響度の点数影響度の大きさ
5点致命的で人命にかかわる
4点重症、入院治療を要する
3点通院加療
2点軽症
1点無傷

発生頻度は、「その故障モードが発生する頻度の多さ」を示します。「1年に1回」や「1週間に1回」など具体的な頻度で基準化される場合もあります。

今回は発生頻度を5点満点とし、次のように表します。

発生頻度の点数発生頻度の多さ
5点頻発する
4点しばしば発生する
3点ときどき発生する
2点めったに発生しない
1点まず起こりえない/発生しない

検出難易度は「その故障モードを検知できる難易度の高さ」を示します。

検出難易度が高い物は、製造工程でも出荷後でも検知が難しいです。
検出難易度が低い物は、製造工程で簡単に不具合を見つけることができます。

今回は検出難易度を5点満点とし、次のように表します。

検出難易度の点数検出難易度の高さ
5点1%以下~ほぼ検出不可能
4点20%~1%で検出可能
3点20~50%で検出可能
2点99~50%検出可能
1点100%検出可能

この表をもとに、「モータ駆動用のコンデンサが発火する」のRPNを評価していきましょう。

✅影響度・・・発火によって自宅の火災につながり、人命を失う事故になりかねません。「致命的で人命にかかわる」の5点にします。
✅発生頻度・・・実際の絶縁劣化は10年、20年のような長い期間でしかわかりません。「めったに発生しない」の2点にします。
✅検出難易度・・・製造時の絶縁性能は検査できますし、絶縁劣化の寿命予測についてもある程度可能ではあります。しかし、製品がお客さんに届いた後の絶縁性能はチェックできる仕組みがありません。「1%以下~ほぼ検出不可能」の5点にします。

以上から、

検出難易度(RPN) = 5(影響度)×2(発生頻度)×5(検出難易度) = 50 と評価できました。

ステップ6.対策を検討する

故障モードを起こさないための対策を検討します。

設計FMEAでの対策は、設計上での対策となります。
例えば、
「購入部品を違うメーカー/型式に変更する」
「強度解析を行い、〇〇部の応力が△△MPa以下になることを確認する」
などの対策が考えられます。

今回のコンデンサの発火の例では、絶縁破壊しても保護装置で電圧がかからなくなる部品を採用します。

✅予防対策・・・絶縁破壊時の保護装置を内蔵したコンデンサを採用する
とします。

ステップ7.対策の結果を記入する

対策を実施し、その結果を記入します。

今回のコンデンサの発火の例では、

✅対策実施・・・A社の保護装置内蔵コンデンサ(型式:〇〇)を採用
とします。

実機やサンプルを用いて試験が必要な場合は、その項目に特化した試験を実施し、後追いでFMEAに結果を記載します。

以上で1つの故障モードについてのFMEAは完了です。
今回のコンデンサの発火の例では、次のようになります。

ユニット部品名称故障モード原因発生メカニズムお客様への影響
駆動部コンデンサ発火する経年使用による絶縁破壊絶縁破壊後の絶縁油への引火火災による火傷、家財破損
FMEA 表の左半分←
影響度発生頻度検出難易度リスク優先度
(RPN)
予防対策対策実施
52550絶縁破壊時の保護装置を内蔵したコンデンサを採用するA社の保護装置内蔵コンデンサ(型式:〇〇)を採用
FMEA 表の右半分→

※表を1行にすると横が長くなってしまうので、2行に分割しました。実際のFMEAは、1行の表で表します。

ステップ8.4~7を全ての部品に対して実施し、FMEAを完成させる

上記のステップを、すべての部品/故障モードについて実施すれば、FMEAが完成します。

FMEAを進める際のポイント・注意点

FMEAは、「書くこと」そのものが目的ではありません。
チームでの議論を通じて気づきを得て、対策につなげることが大切です。

ここでは、FMEAを進めるうえで特に意識したいポイントを紹介します。

📌 完璧を目指さず、まずは書き出してみる
FMEAに取り組む際、「このレベルで漏れがないだろうか?」で悩むことがよくあります。
でも、最初から完璧なFMEAを作ろうとしなくても大丈夫です。

まずは思いつく故障モードを素直に書き出し、
DR(デザインレビュー)などで関係者と話しながら、ブラッシュアップしていくのが現実的です。

📌 チームで実施するのが基本
FMEAは、一人で机上で完結させるものではありません。

設計者、製造担当、品質保証など、関係部門が集まって進めることで、
それぞれの視点からより現実的なリスクや対策が見えてきます。

多くの先輩設計者はFMEAの様式・要領が分かっています。なので、「この部品の〇〇のような故障モードがあるのではないか」というように、DRでの指摘もしやすいです。

一人で抱え込まず、みんなで議論する。そうして漏れなく想定される故障モードを洗い出すのが、のちのち不具合を出さないために重要です。

(まとめ)FMEAは「未然に不具合を出さない」ための品質改善手法

FMEAは「想定される故障モードを全て洗い出し、ものを作る前に対策を打つ」ための品質改善手法です。

設計や製造工程の中にあるリスクをあらかじめ洗い出し、チームで議論し、現実的な対策につなげる――この一連のプロセスが、FMEAが生み出す価値となります。

「一度もトラブルを起こさないモノづくり」を実現することは、正直なところなかなか難しいです。
しかし、FMEAを正しく使えば、不具合発生の頻度、確率を着実に下げていくことができます。

「これから起こる不具合、故障を未然に防ぐ」のはFMEAの役割です。
お客様に不具合を出して迷惑をかけないのはもちろん、不具合を未然に防ぐことで製品開発を効率よく進めるためにも重要なことが分かっていただけたでしょうか。

FMEAで故障モードを洗い出す、対策を考えて実施していくことは技術者としてのレベルアップにつながります。ぜひ、前向きに取り組んでみてくださいね。