製造業×生成AIの活用事例3選:技術者が実務で使える具体的な使い方を解説
2026.05.30

近年、生成AIの活用はさまざまな業界で広がり、製造業でも導入が進み始めています。しかし、「会社で生成AIが導入されたけれど、具体的にどう業務で使えばいいのか分からない」という技術者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、製造業で設計業務に携わる筆者の経験をもとに、技術者が実務で活用できる生成AIの使い方を3つ紹介します。
生成AIは万能ツールではありませんが、うまく使えば業務の効率化を大きく助けてくれる心強いアシスタントになります。ぜひ、日々の仕事に取り入れるヒントとして参考にしてください。
目次
企業で使う生成AIはMicrosoft Copilotがおすすめ
企業で生成AIを使う場合、まず気になるのがセキュリティです。
製造業では、図面や設計仕様、顧客情報など、社外に出してはいけない機密情報を日常的に扱います。そのため、個人向けの生成AIサービスをそのまま業務で使うことに不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
企業利用の観点からおすすめできる生成AIがMicrosoft Copilotです。
Copilotには企業向けのエンタープライズ版があり、入力したデータがAIの学習に使われない仕組みになっています。つまり、社内の情報を入力しても、その内容が外部のAIモデルの学習データとして使われることはありません。データは企業内で閉じた形で扱われるため、安心して業務に活用できます。
また、CopilotはMicrosoft 365と連携できる点も大きなメリットです。
SharePointで共有したPDFやパワーポイントなどOffice形式のデータを読み取れるため、普段の業務で作成した資料を生成AIの入力に使えます。
実際に、筆者が勤務している会社でも、企業向けのデータ保護機能があることからCopilotが採用・導入されています。
製造業での生成AI活用事例①:カタログ資料の要約、課題抽出

ここからは、実際に製造業の技術者として働く筆者が日々使っている生成AIの活用方法を解説します。
まずは、カタログ資料の要約、課題抽出です。
製造業の技術者は、日々多くの技術情報に触れています。
例えば、次のような情報です。
・サプライヤーからの新製品提案
・材料メーカーのカタログ
・技術資料やアプリケーションノート
特に、代理店やサプライヤーから送られてくる新製品の資料は、PDFで数十ページあることも珍しくありません。忙しい業務の中で、それらをすべて読み込むのはなかなか大変です。
このようなときに役立つのが生成AIによる資料の要約です。
筆者が実際に活用した例として、代理店からある樹脂材料の提案を受けたことがありました。メールにはその材料のカタログPDFが添付されており、設計に使えるかどうかを検討する必要がありました。
この樹脂材料を自分の設計案件に使えるかどうかを判断するため、生成AIを活用しました。
例えば、Copilotに次のようなプロンプトを入力します。このとき、同時にPDFのカタログも添付します。
〇〇について解説してください
すると、生成AIは資料の内容を読み取り、次のような形で整理してくれます。
・〇〇とは何か(概要)
・特徴まとめ
・想定される用途
・製品ラインナップ
・各グレードの主な特性
・この材料が使われる理由(価値)
このように整理された情報を見れば、資料全体を細かく読み込まなくても、材料の特徴や用途の全体像を短時間で把握できます。
さらに、この材料について課題を知りたかったため、次のような質問もしてみました。
〇〇の△△材(使用用途)としての課題を分析して、表にまとめてください。
すると、生成AIは、次のような表形式で、考えられる課題を整理してくれました。
| 区分 | 課題内容 | 根拠・背景 |
| **性 | △材としては**性が低く、数値はXXで~(略) | 一般的に△材の特性は××で~(略) |
| 信頼性 | (信頼性についての課題) | (根拠) |
| … | … | … |
最終的に今回の材料については、これ以上の詳細検討は見送る判断となりました。特性上は使える可能性はあるものの、現状は材料に困っている状況ではなかったからです。
代理店と打ち合わせをする際にも、この要約は有効です。事前に材料の概要が分かっていれば理解度も深まり、「この材料は設計で使えるかどうか」の判断もしやすくなります。
このように、生成AIでカタログ資料を要約すれば、新しい技術情報の概要や課題を素早くつかめます。
製造業での生成AI活用事例②:特許の内容確認

製品開発において、他社の特許調査を行うことは珍しくありません。新しい製品を開発する際には、競合になりそうな企業の特許を調査し、自社製品が特許に抵触する可能性がないかを確認します。
特許の文章は言い回しが独特で、慣れていないと内容を理解するのに時間がかかります。海外特許の場合は、ただでさえ独特な言い回しが外国語で書かれているので、内容を把握するだけでも手間がかかります。
これまでは、自分で特許を読み、外国語の場合は翻訳ツールを使いながらも要点をまとめていました。しかし生成AIを使うと、この作業を大幅に効率化できます。
例えば、PDFにした特許文書を生成AIに読み込ませて次のように質問します。
この特許の内容を要約してください。
特に以下の点を整理してください。
・この特許が保護しようとしている技術のポイント
・主な構成要素
・従来技術との違い
すると生成AIが特許文書を読み取り、プロンプトで指示した内容を整理・説明してくれます。
これにより、特許文書を読み込まなくても、全体像を短時間で把握できます。
もちろん、最終的に特許侵害の可能性を判断する際には、請求項をきちんと確認する必要があります。しかし、生成AIを使えば「この特許は自社製品に関係ありそうか」を判断するための一次調査を大幅に効率化できます。
特に海外特許の調査では、翻訳と要約を同時に行ってくれるため、調査のスピードはかなり上がります。筆者の感覚だと、これまで1日かかっていた調査が1~2時間で完了するといったレベル感です。
製造業での生成AI活用事例③:文章作成

生成AIが得意とする作業の一つが、定型的な文章作成です。
製造業で働く人たちは、事務系・技術系を問わず日常業務で多くの文章を書く機会があります。例えば技術者であれば、次のような文章を書くことが求められます。
・技術報告書
・製品についての顧客への説明資料
・検討結果のまとめ
・社内用の報告書まとめ
・社内外へのメール
文章作成は、内容を整理して形にするのに時間がかかります。
そこで役立つのが、生成AIによる文章のたたき台作成です。
例えば、報告書の「背景」や「目的」、「結言」のような文章は、今回の報告内容をAIに読ませることで、文章として整理してもらうことができます。
筆者の場合、報告書のたたき台作成に次のようなプロンプトを使っています。
〇〇についての報告書を作ります。背景と目的のセクションを執筆してください。執筆にあたり、これまでの〇〇についての資料を添付します。このデータを参考にしてください。
また、文章の書き方は△.docxの報告書(過去の別テーマの報告書)を参考にしてください。
(プロンプトと同時に、資料を添付する)
文章の最終チェックはもちろん人が行う必要がありますが、ゼロから文章を書くよりも生成AIにたたき台を作ってもらう方が効率的です。
また、文章作成の事例としてもう一つ便利な活用法が、英文メールの作成です。
海外の顧客やサプライヤーとやり取りする場合、英文メールを書く機会があります。しかし英語に慣れていないと、
・文法は正しいか
・ビジネスメールとして適切か
・失礼な表現になっていないか
などを気にしてしまい、メールを書くのに時間がかかることがあります。
そのような場合、生成AIに次のように指示してみましょう。
次のメールは顧客からの〇〇についての問い合わせのメールです。
営業として対応する返信メールを作成してください。
ビジネスの場にふさわしい形式でお願いします。
#盛り込む内容
・〇〇のエラーについては、△△を試すこと
・それでも改善しない場合は■■を試すこと
・日本の設計部門にも確認するため、☆☆の情報を共有してほしいこと
#問い合わせのメール
(ここに、問い合わせのメール文章を貼り付ける)
生成AIは、顧客からのメールを踏まえた返信メールを作成してくれます。
もちろん、生成されたメールをそのまま送るのではなく、内容を確認する必要はあります。ただ、文章の骨組みがすでにできているため、0から作成するよりも早くメールを送れるはずです。
このように生成AIを活用すると、文章作成の時間を大幅に短縮できます。その分、本来の設計業務に時間を充てられるのです。
製造業での生成AIはすでに普及・活用が進み始めている
ここまで、製造業の技術者向けの生成AIの使い方を紹介してきました。
「とはいえ、まだ生成AIは一部の人しか使っていないのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし実際には、製造業でも生成AIの導入・活用は着実に進み始めています。
例えば、日立の北海道支社では、Copilotを活用して次のような業務効率化の取り組みが紹介されています。
日立の生成AI活用事例①:営業の契約書作成・契約交渉支援
契約書の内容を生成AIに分析させ、
・契約内容の改善点
・交渉時に重要となるポイント
などを整理してもらうことで、契約業務の効率化を図っています。
日立の生成AI活用事例②:入札時の情報収集支援
公共案件の入札では、自治体のホームページや公開資料などから情報を収集する必要があります。こうした情報収集の作業を生成AIにサポートさせることで、短時間で必要な情報を整理できるようになっています。
日立の活用事例のように、製造業でも生成AIを日常業務のサポートツールとして活用する流れが始まっています。
製造業で生成AIを使う時の注意点

生成AIは便利なツールですが、業務で使う場合にはいくつか注意しておきたいポイントがあります。特に製造業では機密情報を扱うことが多いため、データの取り扱いには注意が必要です。
ここでは、製造業で生成AIを活用する際に意識しておきたいポイントを3つ紹介します。
生成AIの注意点①:データの取り扱いに注意する
生成AIに入力する情報には注意が必要です。設計図面や顧客情報などの機密情報を外部AIサービスに入力することは、情報漏えいのリスクがあります。
情報漏えいの事例として、サムスン電子が社内機密のソースコードをChatGPTにアップロードし、誤って流出させたことを発表しています。
この情報流出が同社に直接被害をもたらしたかは不明ですが、サムスン電子としては生成AIに共有したデータがAIサービス企業のサーバーに保存され、他のユーザーの回答に使われてしまうことを懸念しているようです。
情報漏えいの対策として、セキュリティ機能備えた生成AIを使いましょう。
例えば、Copilotのエンタープライズ版には、入力データの暗号化や、生成AIの学習に使わないためのデータ保護機能が搭載されています。
生成AIの注意点②:AIの回答は必ず人が確認する
生成AIは自然な文章を生成できますが、必ずしも内容が正しいとは限りません。誤った情報を出力する「ハルシネーション」が発生する場合もあります。AIの出力はそのまま使用せず、必ず人が内容の正確性を確認しましょう。
生成AIはあくまで「情報整理や文章作成のアシスタント」として使い、最終的な判断は必ず人が行うことが重要です。
生成AIの注意点③:社内での利用ルールを整備する
生成AIを業務で活用する際には、社内での利用ルールを整備することが重要です。生成AIは便利なツールである一方、使い方を誤ると情報漏えいや誤った判断につながる可能性があります。
例えば、次のようなルールを決めておくとよいでしょう。
・機密レベルの高い情報や、顧客情報、従業員の個人情報は入力しない
・社外向け資料にAIで生成した文章を使う際は、必ず部門内で確認を行う
・生成AIの回答をそのまま業務判断に使わない
社内ルールをあらかじめ決めておくことで、現場では安心して生成AIを活用できるようになります。
(まとめ)生成AIを活用して業務を効率化し、価値のある仕事に集中しよう
今回は、製造業の技術者が実務の中で活用できる生成AIの使い方を紹介しました。
生成AIは、何でもできる万能ツールではありません。しかし、うまく使えば業務を効率化し、日々の仕事をサポートしてくれる優秀なアシスタントになります。
ぜひ日々の業務の中に少しずつ取り入れ、製造業の業務効率化に役立ててみてください。
要約や文章作成の業務だけでなく、図面管理の分野でもAIの活用が進み始めています。
例えば、図面管理システムの中には、図面の形状をAIが判定し、似た形状を過去の図面の中から検索できる「AI類似図面検索機能」を備えたものもあります。
「図面バンク」では、このAI類似図面検索機能を搭載しており、形状が似ている図面をボタン一発で検索できます。これにより、過去に作った類似形状の図面を探す時間を圧倒的に短縮できます。
図面管理に課題を感じている場合は、AIを活用した図面管理システムの導入もご検討ください。


