産業用ロボットメーカーのランキング TOP5を紹介
2025.06.07

「産業用ロボットのメーカーって、どこが有名なの?」
「FANUCや安川電機ってよく聞くけど、どのくらいの規模なんだろう?」
製造業やFA業界に関わり始めた方なら、一度はこんな疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。近年は人手不足や自動化技術の発展、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速などの背景により、工場の自動化が進み、産業用ロボット市場も成長しています。
本記事では、産業用ロボットに10年以上関わってきた現役エンジニアが、2024年度の最新データをもとに「産業用ロボットメーカーの売上高ランキングTOP5」をわかりやすく解説。各メーカーの得意分野や代表製品、業界でのポジションなども整理しています。
これからロボット導入を検討する方や、業界理解を深めたい技術者・営業担当の方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
産業用ロボットとは
産業用ロボットとは、製造業の現場で「作業の自動化」を目的に導入されるロボットのことです。代表的な用途には、部品の搬送・組立・溶接・塗装・検査などがあり、人の手作業に代わって安定した品質と高い生産性を実現します。
もともと単純な繰り返し作業に使われていたロボットですが、近年ではセンサーやAIとの連携により、より柔軟で高精度な作業が可能になっています。特に日本では、製造業の人手不足や働き方改革、品質要求の高度化といった社会背景もあり、多くの工場で産業用ロボットの導入が進んでいます。
複数軸(多軸)で構成される産業用ロボット
産業用ロボットは「多軸ロボット」と呼ばれることもあります。これは、複数の「関節(軸)」を持ち、自由度の高い動きができるロボットを指します。
産業用ロボットの「軸」は「サーボモーター」と「減速機」で構成されます。サーボモーターは精密な動きを素早く行うロボットの動力源です。減速機は、サーボモーターの回転を減速させる代わりに回転する力(トルク)を増幅させる機械部品です。
人の腕が肩・肘・手首のようにいくつかの関節で動くように、ロボットも複数の軸を組み合わせることで、物をつかんで移動させたり、溶接したりする動作が可能になります。
ロボットの軸構造にはいくつか種類があり、以下のようなタイプが存在します:
・垂直多関節ロボット(人の腕に似た構造)
・水平多関節ロボット(スカラロボットとも呼ばれる)
・人協働ロボット(人と同じ作業空間で動作)
・パラレルリンクロボット(高速ピック&プレース向き)
・直交ロボット(X・Y・Zの直動)
・その他(円筒座標、極座標、双腕型など)
これらのロボットは、それぞれ得意とする作業や設置条件が異なるため、現場のニーズに応じて使い分けられています。
こちらの記事に、産業用ロボットの定義と種類について詳しく書いていますので、参考にしてください。
産業用ロボットメーカーのランキング(売上高順、1位~5位)
産業用ロボット市場は世界中で拡大を続けており、多くのロボットメーカーがさまざまな製品を展開しています。では実際、売上高という指標で見ると、どのメーカーが「世界のトップ」と言えるのでしょうか?
本章では、2024年度の最新データに基づいて、産業用ロボットメーカーの売上高ランキングTOP5を一覧表とグラフでご紹介します。
✅産業用ロボットの売上高ランキング一覧表(2024年度・日本円換算)
| 順位 | メーカー名 | 本社所在地 | ロボット部門の売上高(2024年度) | 為替換算 | 得意分野 |
| 1位 | ABB | スイス | 3,439億円 | USD→JPY (1USD=149.52JPY) | 溶接、搬送、パラレルリンク |
| 2位 | FANUC | 日本 | 3,296億円 | – | 工作機械との連携、人協働ロボット |
| 3位 | 安川電機 | 日本 | 2,374億円 | – | 塗装、アーク溶接、組立 |
| 4位 | KUKA | ドイツ | 1,770億円 | EUR→JPY (1EUR=162.08JPY) | 自動車産業、スポット溶接 |
| 5位 | 川崎重工業 | 日本 | 1,041億円 | – | ウエハ搬送ロボット、人協働ロボット |
産業用ロボットメーカーを比較する指標には、利益率や販売台数、生産能力などさまざまなものがありますが、今回の記事では売上高に注目しました。
売上高は企業の規模や市場での存在感と密接に関係しており、市場シェアや販売台数を推測するための汎用的かつ信頼性の高い指標といえます。
また、今回は各メーカーの「ロボット部門の売上高」に注目してランキングを作成しました。
メーカーによっては「ロボット+他の製品」を1セグメントとして発表する企業もありますが、それでは産業用ロボット単体としての規模が見えてきません。
今回は各社プレスリリースなどの資料から「2024年度のロボット部門の売上高」を抽出し、ランキングとしました。
1位:ABB(売上高:3,439億円@2024年度)
スイスに本社を構えるABBは、世界的な電機・自動化機器メーカーであり、産業用ロボット分野でもトップクラスの実績を誇ります。 2024年度のロボティクス部門の売上高は約22.99億米ドル(約3,439億円)で、名実ともにグローバルトップの産業用ロボットメーカーの1つです。
2024年度の売上高としては、僅差で2位のファナックを上回りましたが、年度や為替レートによっては順位は容易に変動しうるでしょう。ランキング的にはほぼ同率と捉えてよいでしょう。
※売上高の数値は、下記記事から引用
ABB plans to spin off its robotics division
🌍ロボティクス部門が2025年度より分社化
ABBは2025年4月の決算発表において、ロボティクス部門を2026年第2四半期をめどに分社化し、仮称「ABB Robotics」として独立させる計画を明らかにしました。
この決定の背景には、ロボティクス事業が他のABB事業(重電、モーション、プロセス制御など)とシナジーが限定的であるという構造的な課題があるようです。CEOのマーティン・ウィーロッド氏も「両社がそれぞれの価値創造に集中できるようにするため」とコメントしており、今後の資本配分の柔軟性や迅速な意思決定が期待されます。
筆者はこの動きは同社にとってポジティブなニュースと捉えています。
ロボティクス部門は近年、AIやソフトウェア連携の高度化、ティーチングレスをはじめとしたロボットの知能化、ヒューマノイドや人協働ロボット分野の商業化など、革新領域への積極投資が求められています。
分社化によって、
・本社部門への予算申請フローが簡略化する
・他部門との予算の割り当てを気にしなくてよい
というメリットが出ると考えられます。
ロボット部門の独立は、これら新しい領域への投資を加速させるものと予想します。
🔧ABBの得意分野
ABBは、製造業のあらゆる分野に対応する幅広いロボットラインアップを展開していますが、特に以下の分野で強みを発揮しています。
・溶接・塗装・組立などの一般産業用途
・高速なピック&プレースを実現するパラレルリンクロボット
🛠代表的な製品
・IRB 6700シリーズ(高可搬・重作業向け)
・IRB 1300シリーズ(高速・コンパクトな汎用モデル)
・IRB 360 FlexPicker(パラレルリンクロボット)
・YuMiシリーズ(人協働ロボット)
2位:FANUC(売上高:3,296億円@2024年度)
FANUC(ファナック)は、日本を代表する産業用ロボットメーカーであり、NC装置(数値制御装置)、ロボマシン、産業用ロボットといった自動化ソリューションをグローバルに展開しています。
2024年度のロボット部門の売上高は約3,296億円。グローバルトップクラスの規模を誇り、スイスのABBと並ぶメーカーです。
本社は山梨県忍野村にあります。山中湖から河口湖に向かう道中、冨士山のふもとにロボット工場が大きく広がっています。
※売上高の数値は、下記資料の「Yearly Changes in Sales by Division」から引用
Financial Results for the year Ended March 31, 2025
🟡自社製マシニングセンタ「ロボドリル」とロボットの連携に強み
FANUCの強みのひとつが、自社製のマシニングセンタ「ロボドリル」とロボットの連携性です。
ロボドリルは、iPhoneの筐体加工などで使われている小型のCNCマシニングセンタで、FANUC製ロボットと組み合わせることで、ワークの自動供給(ローディング)や排出(アンローディング)を一貫して自動化するソリューションを実現しています。
展示会や技術イベントでも、ロボドリル+ロボットの組み合わせを用いたアプリケーション提案がたびたび披露されており、この分野での実績とノウハウはFANUCならではの強みです。
🤖 FANUCのロボットの特徴
FANUCのロボットといえば、黄色い機体が目を引くトレードマークですが、その見た目と同様に業界で評価されているのがその高い信頼性です。
FANUCのロボットは信頼性が高く、寿命が長い、壊れにくいと評価するユーザーが多いです。
この堅牢さは、FANUCの製品開発方針である
「Weiner Teile(部品点数の削減)、Reliability Up(信頼性向上)、Cost Cut(コスト削減)」
に基づく設計思想が表れていると言えます。
※参考:FANUCの開発思想については同社の研究開発の基本姿勢のページをご覧ください。
🛠 代表的な製品
・LR Mateシリーズ(小~中可搬の多用途モデル)
・M-1000iA(大型・高可搬。自動車業界での実績多数)
・CRXシリーズ(接地や操作が簡単な協働ロボット。可搬重量5kg~30kgをラインアップ)
3位:安川電機(売上高:2,374億円@2024年度)
安川電機(YASKAWA Electric Corporation)は、福岡県北九州市に本社を構える日系ロボットメーカーです。
1915年創業の長い歴史を持ち、北九州地域の炭鉱業に使う電機品を製造するところからビジネスを始めました。
現在はACサーボモータ、インバータ、そして産業用ロボットの3製品がビジネスの柱となっています。
2024年度のロボット事業の売上高は約2,374億円。FANUCに次ぐ日本第2位、グローバルでも第3位のロボットメーカーです。
※売上高の数値は、下記資料のロボット 売上収益から引用
YASKAWA 2025年2月期 決算短信[IFRS] (連結)
🦾「MOTOMAN」ブランドとアーク溶接の強み
安川電機のロボットは「MOTOMAN(モートマン)」というブランド名で商品化されています。特にアーク溶接ロボットの分野で世界トップクラスのシェアを持ち、自動車のフレームや部品の溶接工程を支えています。
その他にも、組立、搬送、塗装、ウエハ搬送ロボットなど多様なロボットのラインアップをそろえています。
🛠 代表的な製品
・MOTOMAN-ARシリーズ(アーク溶接ロボット)
・MOTOMAN-GPシリーズ(多用途の汎用6軸ロボット)
・MOTOMAN-HCシリーズ(人協働ロボット)
・SEMISTAR-GEKKOシリーズ(ウエハ搬送ロボット)
🧠 自律的に動く新型次世代ロボット「MOTOMAN NEXT」
安川電機は2023年、自律性を備えた次世代産業用ロボット「MOTOMAN NEXTシリーズ」を発表しました。
このロボットは、従来の産業用ロボットでは対応が難しかった不確定要素の多い現場作業=“未自動化領域”に対応することを目的に開発されました。
たとえば、同社のデモではMOTOMAN NEXTが食器の下げ膳作業や野菜の箱詰めといった作業をこなしています。
MOTOMAN NEXTの最大の特長は、「ロボット自身が状況を判断し、作業計画を立て、実行までを自律的に行える」点にあります。これは、ロボットコントローラ内に搭載された“自律制御ユニット”によって実現されており、環境の変化に応じて動作内容を最適化できます。
MOTOMAN NEXTには米NVIDIA(エヌビディア)製のGPUが標準搭載されています。GPUは膨大なセンサーデータや画像情報を高速に処理し、AIと連携してロボットの知能化を支えています。
安川電機は、MOTOMAN NEXTを通じて製造業に限らず、食品、物流、農業、医療など多様な業界における“未自動化領域”の課題解決を目指しています。
4位:KUKA(売上高:1,770億円@2024年度)
KUKA(クーカ)は、ドイツ・アウグスブルクに本社を構える老舗の産業用ロボットメーカーです。創業は1898年と非常に古く、もともとはガスランプ製造からスタートした会社です。
1970年代に産業用ロボットの開発に参入し、現在ではヨーロッパ最大級のロボットメーカーとしてグローバルに事業を展開しています。
2024年度のロボット部門の売上高は約11億ユーロ(日本円換算で約1,770億円)。特に自動車業界向けの溶接ロボットや搬送ロボットで大きなシェアを持っています。
🏭 自動車業界や物流業界で存在感
KUKAのロボットは、自動車産業や物流業界で存在感があります。BMWやフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツなど、ドイツを代表する完成車メーカーの多くがKUKA製ロボットを導入しています。
特に、スポット溶接や車体搬送に使われる大型・高可搬ロボットに強みがあり、車体生産ラインの自動化を長年支えてきた実績があります。また、欧州以外にも中国・北米・アジア各地に拠点を持ち、グローバルなサプライチェーンに対応できる体制が整っています。
物流業界においては、垂直多関節ロボットとAGV(無人搬送車)を組み合わせた統合ソリューションに力を入れています。KUKAは2014年にAGV最大手のSwisslog社を買収しました。KUKAのロボット技術とSwisslog社のAGV(ロボット搬送台車)を組み合わせた搬送ソリューションを提供しています。
例えば、サウジアラビアの乳製品会社アルマライは、自社の物流倉庫にKUKAとSwisslogの自動化ソリューションを導入しています。KUKAのロボットは真空グリッパーを使用し、フルーツジュースカートンを持ち上げ、指定された位置に置くというパレタイジングの動作を担っているようです。
参考:Swisslog and KUKA are automating the distribution logistics at Almarai
🤝 中国Mideaグループの傘下へ
KUKAは2016年、中国の大手家電メーカー「Midea(美的集団)」に買収され、現在はその子会社として運営されています。この買収により、中国市場での販売拡大や生産能力強化が進んでおり、近年では中国国内でもKUKAのプレゼンスが急上昇しています。
🛠 代表的な製品
・KR QUANTECシリーズ(高可搬・高精度ロボット)
・LBR iiwaシリーズ(人協働ロボット)
・KMP(KUKA Mobile Platform)シリーズ(AGV/AMR)
5位:川崎重工業(売上高:1,041億円@2024年度)
川崎重工業(Kawasaki Heavy Industries, Ltd.)は、兵庫県神戸市に本社を置く日本の総合重工メーカーです。船舶・鉄道・航空機から、モーターサイクルや産業機械に至るまで幅広い事業を展開する同社ですが、1969年に日本で初めて産業用ロボットを生産開始したパイオニアでもあります。
2024年度のロボット事業の売上高は約1,041億円。日本国内ではFANUC、安川電機に次ぐ第3位で一定のシェアを持ちつつ、特定領域に強みを発揮するロボットメーカーとして国内外で存在感を示しています。
🔧 半導体搬送ロボット・人協働ロボットで高いシェアを持つ
川崎重工のロボットは、汎用産業用ロボット(アーク溶接・スポット溶接・組立・塗装など)の他、半導体・液晶パネル製造工程向けのウエハ搬送ロボットで高い評価を得ています。
川崎重工のウエハ搬送ロボットですが、下記の動画(Kawasaki Wafer Robot NTJ20 鑫佑科技代理)で「川崎重工独自のギアトレーンによるアーム駆動で、高速動作を実現」と紹介されています。
川崎重工は油圧ポンプや航空機エンジン向けギヤボックスも製造しており、ギヤによる伝達機構の技術を持っています。この技術が同社のロボットにも活用されているようです。
Kawasaki Wafer Robot NTJ20 鑫佑科技代理 また、人と一緒に作業できる人協働ロボット「duAro(デュアロ)」も、川崎重工を代表するロボット製品の一つ。双腕型の構造により、片方のアームで部品を押さえ、もう片方で組み立て作業を行うといった、人間に近い動作が可能です。中国のEMS向けを中心に実績を築いています。
Kawasaki Robotics: duAro assembles details 🤖 従来の枠にとらわれないユニークなロボット開発も展開
川崎重工は産業用ロボットのパイオニアとして知られていますが、近年ではその枠にとらわれないユニークなロボット開発にも注力しています。
たとえば、2025年の大阪・関西万博では四足歩行ロボット「CORLEO」を展示しており、ロボットに載って未舗装地を走破する”未来の乗り物”として紹介しています。【万博】四足歩行の「未来の乗り物」展示 重心を移動させ進行方向など操作 燃料は水素 川崎重工開発 また、ヒューマノイドロボット「Kaleido(カレイド)」の開発にも取り組んでおり、ロボットと人が共存する未来を見据えた技術実証を進めています。
このような産業用途以外のロボットを手がけるロボットメーカーは珍しく、その意味でも川崎重工はユニークなメーカーです。


