AI図面管理の最前線:製造業の業務効率化を実現する4つの革新的技術を紹介!
2024.08.09
製造業における図面管理は、企業の生産性と競争力を左右する重要な要素です。しかし、従来の紙ベースの管理方法では、図面を探すのに時間がかかるなど、その活用に多くのコストがかかっていました。そこで注目を集めているのが、AI(人工知能)技術を活用した図面管理です。
AIによる図面管理は、作業の効率化だけでなく、属人化をなくし、図面管理業務にまつわるノウハウを企業のものにするといった新たな価値創造にも貢献します。本記事では、「AIが図面管理業務でできること」について、下記の4つを紹介します。
「AI-OCRによる紙図面データ化の効率化」
「AI図面チェックによる人的ミス削減」
「AI類似図面検索による設計業務、発注業務の効率化」
「AI自動見積もりによる見積もり回答短縮」
さらに、将来的なAI技術の進化についても予測し、製造業がどのように変わっていくのかを探ります。AI図面管理の導入を検討している方はもちろん、製造業のデジタル化に興味がある方にとっても、参考になる記事になっています。
AI技術が切り拓く、新しい図面管理の世界をご覧ください。
目次
AIが変える図面管理の未来
今までの図面管理にまつわる業務は、効率化やノウハウ引継ぎの面で問題がありました。
たとえば、過去に作った似たような製品を設計する、という時に類似製品を大量の図面から探さなければいけない、という状況があります。人手で探していると時間がかかりますし、検索キーワードによっては最悪探せなかった、という結果になるかもしれません。
別のケースでは、機械加工部品の見積もりは、製品のことなら何でも知っているベテラン設計者に頼りきりという状況も問題です。しかし、企業内で人口ボリュームの多い50代はもうすぐ定年退職。若い社員に見積もり業務を任せたいが、言語化しにくいノウハウをどのように伝授するかお悩みかもしれません。
そのような問題が、AI技術によって解消されつつあります。
今まで作られてきた大量の図面から、欲しい図面を1瞬で検索したり、AIのサポートによって見積もり業務を入社1年目の社員ができるようになる、という革新的な手段として期待されています。
AIが図面管理業務でできること4選
ここでは、現在AIが図面管理業務でできることを4つ紹介します。
①AI-OCRによる紙図面データ化の効率化
多くの製造業では、長年蓄積された紙の図面が大量に存在します。これらをデジタル化することは、検索性や保管効率を高める上で重要ですが、従来のOCR(光学文字認識)技術では限界がありました。ここでAI-OCRが革新的な解決策となっています。
AI-OCRの特徴:
1.高精度な文字認識:AI技術、特に機械学習を活用して、手書き文字や特殊な記号も高い精度で認識可能です。
2.レイアウト解析:図面の構造を理解し、寸法線や注釈などの要素を適切に識別します。
3.ノイズ除去:スキャン時のゆがみや、文字背景の影を認識し、文字のみを適切に識別します。
4.学習による深海:使用するほどにOCRの精度を高められます。
導入効果:
・データ化の作業時間を削減
・人的ミスによる文字の入力エラーを低減
AI-OCRを採用した図面管理システムとして、「CADDi Drawer」があります。
図面をCADDi Drawerに登録すると、AIが図面内の文字や寸法を自動で解析し、テキストで検索可能な状態にします。
図面に書かれている文字情報は多く、一枚ずつ手入力すると大幅な時間がかかります。感覚的には、図面1枚の文字情報を入力するために、10分~30分程度はかかると思われます。その作業をAIで自動的に、高い精度で文字起こしできるのはありがたいです。
②AI図面チェックによる人的ミス削減
図面チェックは製品の品質を左右する重要なプロセスですが、人間による作業では見落としや疲労によるミスが避けられません。AIを活用した図面チェックシステムは、この課題に革新的なソリューションを提供しています。
AI図面チェックの主な機能:
1.図面の解析:図面情報から規格、数量などの情報を抽出します。
2.設計書類間の確認:設計関連の書類や複数の図面を照査し、書類間の整合性や法規制要件の抜け漏れをチェックします。
3.出力:確認結果をリスト形式などで出力します。
導入効果:
・図面のチェック時間の低減
・人的エラーによる設計ミスを低減
・設計品質の標準化(誰が設計しても、ある程度図面の品質が担保できる)
AI図面チェックの製品としては、東芝による「設計図書整合性チェックシステム」と、電通総研による「図面チェックソリューション」があります。
AIによって設計図書類を照査し、図面と設計書との整合性チェックや、法規制要件の抜け漏れ確認が可能となっています。
③AI類似図面検索による設計業務・受注業務の効率化
AI類似図面検索は、システムに保管された図面や資料から、類似する図面を自動で探し出す機能です。これにより、過去の類似図面を迅速に見つけ出し、参考にすることができます。AI類似図面検索は、産業機械や半導体などの製造現場で活用されつつあります。
AI類似検索を使うと、下図のように類似度の高い順に似た形状の図面が表示されます。
AI類似図面検索システムの主な特徴:
1.形状認識による検索: AIが図面の形状を理解し、類似した形状の過去の図面を瞬時に検索します。
2.部分一致検索: 図面の一部分だけを指定して、その部分に類似した要素を持つ図面を検索できます。
3.手書きの形状認識:CADで製図した図面だけでなく、手書き図面やポンチ絵レベルの図でも形状認識し、検索ができます。
導入効果:
・図面を探す時間を短縮
・新規設計の品質向上(類似過去設計の知見活用)
・見積もり回答の短縮化による受注業務の効率化
AI類似図面検索の製品として、株式会社テクノアの「AI類似図面検索」があります。
同製品の活用事例として、過去の類似図面を参考にした見積もり業務を短縮し、残業時間を半減した企業があります。
参考:AI類似図面検索で社内の情報資産を有効活用! 残業時間半減&取引先からの信頼度UP
④AI見積もりによる見積もり回答の短縮
AI自動見積もりは、AIが図面情報を解析し、必要な材料や工数を基に見積もりを自動で作成する機能です。これにより、見積もり作業の効率化と精度向上が図れます。AIは過去のデータを活用して、より正確な見積もりを提供し、見積もり業務の回答を短縮します。
AI見積もりシステムの主な特徴:
1.図面の自動解析:AIが図面を解析し、形状や材料から加工工数を見積もります。これにより、人によるばらつきの少ない見積もりが可能となります。
2.過去データの学習と活用:過去の見積もりデータや製造コストの実績をAIが学習し、活用すればするほど精度の高い見積もりが期待できます。
導入効果:
・見積もり作成時間の短縮
・担当者による見積もり価格のばらつき低減
・新人や若手社員による見積もり業務の実施
AI見積もりシステムとして、株式会社REVOX(レボックス)が提供する「SellBOT」があります。
SellBOTは2次元図面を読み込んでAIが分析し、過去の類似実績をベースに適正な見積もりを出してくれます。熱処理など付帯加工の自動計算や、数量に合わせたボリュームディスカウントも考慮して見積もりが可能です。
今後のAIの図面管理業務における進化の予想
AI技術の急速な発展に伴い、AIが担当する図面管理の領域はさらに広がっていくことが予想されます。以下に、今後期待される主な進化の方向性を示します。
AIによる自動設計の高度化
AIが要求仕様や設計書から、最適な設計案を自動生成する技術が進化すると予想されます。大まかな形状は人間が手書きのスケッチをして、AIが具体的な図面化をするというプロセスが実現できても、おかしくないでしょう。
生成AIは自然言語を処理できるので、要求仕様や設計書から、仕様の内容や設計の意図を理解し、図面を生成。人間はコンセプトとなる形状の立案や、AIが十分にくみ取れなかった細かい図面情報を追記。このように、AIの処理能力と人間の創造性を組み合わせた、新しい仕事の仕方が実現するかもしれません。
AIによる流用設計の支援
AIは、図面の形状情報、穴の配置や大きさなどの図面情報を解析し、パラメータ化することが可能です。この特性を利用し、流用設計をAIに支援してもらう将来像が予測できます。
穴の数や配置の変更、一部形状の変更などを自然言語で入力すれば、AIがCADと連携し、元の図面から流用設計した図面の作成ができる、というものです。
エッジAIの活用
設計現場のPCで動くAIがリアルタイムに図面チェックや作図ミスの修正提案を行う技術が普及すると予想しています。
機械加工部品などものづくりは、いったんものができると修正に時間がかかります。出図前の段階でなるべく設計ミスによる作り直し、修正は減らしたいです。エッジAIによる図面チェックで、設計ミスや出図後の設計者と加工者の連絡を減らせば、設計者の生産性は上がると思います。
これらの進化により、図面管理業務は単なる効率化にとどまらず、製品開発プロセス全体を変革する可能性を秘めています。
まとめ
本記事では、AI技術が製造業の図面管理業務にもたらす革新について詳しく見てきました。主な内容は以下の通りです:
①AI-OCRによる紙図面データ化の効率化
②AI図面チェックによる人的ミス削減
③AI類似図面による設計業務・受注業務の効率化
④AI見積りによる見積もり回答の短縮
これらの技術を実際に導入して大きな成果を上げている企業もあります。効率化、品質向上、若手社員のスキルアップなどの効果が報告されています。
さらに、今後のAI技術の進化により、図面管理業務はさらなる革新を遂げると予想されます。AIによる自動設計の高度化、AIによる流用設計の支援、エッジAIの活用といった可能性が期待できます。
AI図面管理システムの導入は、もはや単なる業務効率化のツールではありません。製造業のデジタルトランスフォーメーションを加速し、企業の競争力を大きく左右する戦略的な取り組みになっていくと考えられます。
製造業に携わる皆様、特に中小企業の方々には、まずは自社の課題に合わせて、一部の業務からAI技術の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
大手企業はデータの漏えいや自社システムとの統合の関係で、これらの先進技術の導入にはむしろ慎重な姿勢が見られます。スピード感のある中小企業こそ導入を先んじて行うことが、日本の製造業の進化のカギであると筆者は感じています。
AI技術は日々進化しています。本記事が、皆様の企業における業務プロセス改善、DX推進の一助となれば幸いです。