QCサークル活動を根付かせるためのカギ – 推進事務局がすべきこと

2024.05.03

QCサークル活動は、職場の第一線で働く人々が自主的に行う品質管理活動であり、TQM(総合的品質管理)の重要な柱の一つです。

しかし、QCサークル活動を会社に根付かせ、継続的な成果を上げるためには、単にサークルを作るだけでは不十分です。経営トップのリーダーシップ、中間管理職の理解と推進、そして推進事務局の強力なサポートが不可欠です。

特に推進事務局は、QCサークル活動の計画立案から日常的な支援まで、重要な役割を担っています。本記事では、QCサークル活動を軌道に乗せ、活性化するために推進事務局がすべきことに焦点を当てて解説します。

社内の品質改善と人材育成に取り組む企業の経営層や推進担当者の皆さんに、ぜひ参考にしていただきたい内容になっています。

QCサークル活動とは

QCサークル活動とは、職場の第一線で働く人全員が、職場の問題点を継続的に見つけ出し、解決する小集団活動です。各職場でこのような活動をすることで、製品やサービスの質の向上と、職場の人材育成をすることが狙いとなっています。

QCとは「Quality Control(品質管理)」の略称です。QCサークル活動の基本的な進め方として、メンバーが協力して現状を調べ、課題を抽出し、要因を分析して対策を立てて実行し、その効果を確認するというプロセスを繰り返します。この一連のプロセスは「QCストーリー」と呼ばれ、品質管理の考え方や手法を実践的に学ぶ場にもなっています。

QCサークル活動の目的は、単に品質改善を進めるだけではありません。サークルというチームで改善に取り組むことで、一人ひとりの意識向上、自主性の発揮、相互啓発といった人間性の尊重や、改善活動を通した若手社員の育成、職場の活性化にもつなげていくことにあります。

日本で生まれたQCサークル活動は、今や世界80以上の国・地域に展開されていると言われており、幅広い業種・業態で実践されており、職場の課題解決と人材育成に効果を上げています。

出典:QCサークル活動 -国際化した小集団改善活動-

TQM活動の中のQCサークルの位置づけ

QCサークル活動は、TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)の重要な構成要素の一つです。TQMとは、顧客満足を実現するために、品質を基軸に据えて、会社の全部門・全階層が一丸となって、全社的・継続的に品質改善を進めていく経営手法です。

TQMの考え方では、品質は最終製品の検査だけで作り込むものではなく、調達~製造~販売・サービスに至る全てのプロセスで、関連する部門や担当者が品質作り込みに関わることが重視されます。特に、実際に製品を生産したりお客様と接点を持ったりする「現場」の品質意識と改善力が欠かせません。

QCサークル活動は、まさにこの現場の品質改善力を高める有効な手段です。現場の従業員が自律的に品質向上を追求する文化を根付かせるために、多くの企業で実践されてきました。QCサークルの成果は、自部門の問題解決だけでなく、時には全社の品質方針の達成にも貢献するなど、ボトムアップ型の改善活動として、TQMの実効性を支える基盤ともなっています。

QCサークル活動を根付かせるために重要な3つの要素

多くの企業でQCサークル活動が導入されている一方で、形骸化してしまったり、一時的な盛り上がりで終わったりするケースも少なくありません。

現場の自主性も大事なのですが、QCサークル活動を組織に根付かせ、継続的な成果を生み出すためには、組織的に活動を推進することが重要と筆者は考えています。とくに、以下の3つの要素がカギになると思います。

①トップの関与

QCサークル活動を始動させ、持続的な活動として定着させるためには、経営トップの強力なリーダーシップが不可欠です。トップ自らがQCサークル活動の意義を理解し、品質経営の重要な施策として位置づけることで、社内の意識が高まります。

また、トップは自らQCサークルの現場を訪問し、メンバーの活動に耳を傾け、努力を称賛することも手段のひとつでしょう。サークルメンバーの活動プロセスや改善結果を高く評価することで、現場の改善意欲をさらに引き出すことが見込まれます。

②中間管理職の理解と推進

QCサークル活動を円滑に進めるためには、中間管理職の理解と協力が欠かせません。部課長クラスの管理職は、経営トップの方針を受けて、自部門におけるQCサークル活動の位置づけを明確にし、QCサークル活動を部門方針を通じて推進する役割を担います。

中間管理職は、自部門メンバーに活動の意義を説明するとともに、サークルリーダーの選任や育成にも関与します。

また、サークル活動を側面から支援するときも中間管理職のサポートは有効になります。たとえば、サークル活動で提起された改善案件を自部門の方針や業務内容につなげる、活動にあたって他部門との調整を図る、というサポートが考えられます。

③推進事務局の強力なサポート

各職場のQCサークル活動を支え、推進するための組織として、多くの企業で「QCサークル推進事務局」が設置されています。推進事務局は、QCサークル活動のエンジン役とも言うべき存在であり、その機能の発揮がサークル活動の盛衰を左右すると言っても過言ではありません。

推進事務局は、QCサークル活動の年間計画の策定、サークルリーダーの研修、社内発表大会の企画・運営、活動マニュアルの整備など、サークル活動を下支えするための様々な業務を遂行します。また、サークルの日常的な活動をサポートし、適切な助言・指導を行うことで、メンバーの活動意欲を高め、スキルアップを促していく役割も担います。推進事務局が強力にバックアップすることで、現場のQCサークル活動は大きく前進します。

推進事務局がすべきこと

画像:photo-AC

QCサークル活動を組織に定着させ、実効性のある活動として発展させていくためには、推進事務局の役割がカギを握ります。ここでは、推進事務局が取り組むべき活動を具体的に見ていきましょう。

QCサークル活動推進計画の策定と実行管理

推進事務局の第一の仕事は、QCサークル活動に関する年間推進計画を立案し、その実行をマネジメントすることです。推進計画には、テーマアップ完了日限やテーマ完結日限などのスケジュール策定、社内発表会の開催時期、研修の実施内容などを盛り込みます。

推進事務局は、この計画を単に策定するだけでなく、確実に実行されているかどうかを定期的にフォローし、必要に応じて軌道修正を図ることが求められます。たとえば、四半期ごとに部内でレビューを実施することがフォローのひとつのやり方です。四半期レビューは各サークルの活動状況を報告してもらい、停滞しているサークルには原因を分析して必要な対策を講じる良い機会となります。

また、推進事務局は、QCサークル活動の成果を評価する仕組みを整え、活動に関するデータを収集・分析することも必要です。サークル数や参加率、改善件数、改善効果額など、活動の実績を可視化することで、経営層への説明責任を果たすとともに、活動の好循環を生み出していくことができるでしょう。

リーダー育成のための研修の企画・実施

各職場のQCサークルを主導するリーダーの存在は、サークル活動の成否を大きく左右します。推進事務局には、サークルリーダーを計画的に育成する研修体系を整備し、必要なスキルを習得させていく重要な役割があります。

新任のサークルリーダー向けには、QC的問題解決の基本的ステップであるQCストーリーや、QC7つ道具をはじめとする各種の分析ツール、ファシリテーションのスキルなど、活動に不可欠な知識とスキルを体系的に学ぶ研修を実施します。座学だけでなく、先輩サークルのケーススタディなども交えながら、実践的な学びの場を提供することが大切です。

リーダー経験者に対しては、より高度なQC手法や、リーダーシップ、後輩の指導法といった内容の研修を企画するなど、ステップアップのための学びの機会も用意します。社外のQCサークル大会の見学や、他社との交流の場を設けるのもよいでしょう。

社内発表大会の開催

QCサークル活動を活性化し、改善成果を全社的に共有する上で、社内発表大会の開催は非常に有効です。サークルメンバーが日頃の活動の成果を発表し、他のサークルと切磋琢磨する場であると同時に、経営層を含む全社員に活動の意義を伝える重要な機会にもなります。

推進事務局は、社内発表大会の企画・運営を主導します。開催時期や発表テーマの設定、発表サークルの選考基準、発表時間や形式の決定など、大会の骨格を作り上げていきます。サークルメンバーが効果的なプレゼンテーションを行えるよう、事前の発表指導や資料作成の支援も行います。

また、社内発表大会を単なる一過性のイベントで終わらせないためにも、発表内容を社内報やイントラネットで広く共有したり、優秀事例を表彰して他サークルの活動の模範としたりするなど、成果の水平展開と活動のモチベーション向上につなげる工夫も必要です。

加えて、推進事務局は、社内発表大会の結果を踏まえて、サークル活動の推進策を見直すことも重要です。大会での発表内容や質疑応答、参加者の反応などを丹念に分析し、活動の強みと課題を洗い出し、次年度の推進計画に反映させていくことが求められます。推進事務局自身が改善のPDCAサイクルを回すことで、社内メンバーも事務局への信頼度が増し、QCサークル活動を行う風土が醸成される一因となるでしょう。

活動マニュアルの準備

QCサークル活動を職場に定着させ、継続的な活動を実現するためには、活動の進め方やルールを明文化したマニュアルが不可欠です。推進事務局は、サークル活動の標準的なプロセスや各ステップで用いるツール、成果の報告方法などを網羅した活動マニュアルを整備する役割を担います。

マニュアルには、以下のような内容を盛り込むことが考えられます。

・QCサークル活動の目的と基本的な進め方
・サークルの編成方法とメンバーの役割分担
・テーマの選定方法と目標設定のポイント
・QCストーリーに沿った問題解決の流れとツール
・会合の運営方法
・改善成果のまとめ方と報告の様式
・活動の評価基準
・表彰制度
・QC7つ道具、新QC7つ道具のフォーマット

推進事務局は、このようなマニュアルを作成するだけでなく、定期的に内容を見直し、活動の進化に合わせて改訂していくことが重要です。また、マニュアルを形骸化させないためにも、サークルメンバーに対する教育を通じて、マニュアルの意義と活用方法を丁寧に説明することが求められます。

活動マニュアルは、推進事務局自身も活用できます。具体的には、四半期レビュー時などのフォローを通じて、マニュアルの評価基準を用いて各サークルの活動のレベルを評価することができます。数値化された基準があれば、サークル間のばらつきを抑えるができますし、納得感のあるフィードバックができるでしょう。

事務局による日常的なサークル支援のコツ

画像:photo-AC

QCサークル活動を円滑に進め、サークルの自律的な改善を促していくためには、推進事務局による日常的なサポートが欠かせません。ここでは、事務局が行うべき具体的な支援の手法やコツを紹介します。

活動状況を定期的にモニタリングする機会を設ける

事務局は、各サークルの活動状況を定期的に確認し、必要に応じてアドバイスすることが求められます。

具体的には、部内で四半期レビューを開催し、各サークルの活動の進捗や課題を把握します。その上で、QC手法の活用方法や、データ分析の進め方、改善案の立案のポイントなど、専門的な知見からアドバイスを行います。

上司や他部門との調整をする

サークルが改善テーマに取り組む際、担当職場の上司の理解や協力が得られないケースや、他部門との連携がうまくいかないケースがあります。そのような場合、事務局が間に入って調整役を務めることが有効です。

サークルの活動を職場の上司に説明し、理解を得るとともに、必要なサポートを依頼します。また、テーマに関係する他部門に働きかけ、情報提供や協力を求めるなど、サークル活動がスムーズに進むための環境を整備します。

活動ツールの提供と使い方のサポートをする

QC7つ道具をはじめとする各種の活動ツールは非常に有用です。事務局は、サークルメンバーが必要とするツールを適切に提供するとともに、その使い方を丁寧に指導することが大切です。また、パレート図や特性要因図のテンプレートを用意することで、メンバーの負担を軽減し、スムーズな問題分析を促すことができるでしょう。

メンバーの士気の維持・向上に努める

QCサークル活動を継続的に進めていく上で、メンバーのモチベーションを維持・向上させることは非常に重要です。事務局は、サークルメンバーの努力を認め、成果を称賛することで、活動へのやりがいを高めます。

また、改善活動の意義を折に触れて伝えたり、他サークルの優良事例を紹介したりすることで、メンバーの意欲を刺激することも有効です。サークル内の人間関係に配慮し、メンバー同士の信頼関係づくりを支援することも、事務局の重要な役割と言えるでしょう。

活動の振り返りを促進する

サークル活動を単なる改善の繰り返しで終わらせず、メンバーの成長や職場の活性化につなげるためには、活動の振り返りが重要です。

事務局は、一定期間の活動を区切りとして振り返りの場を設定し、サークルメンバーが活動を通じて得た気づきや学びを共有するよう促します。そこでの気づきを次の改善サイクルに活かすことで、サークルの問題解決力を高め、メンバー一人ひとりを成長させることができます。事務局は、振り返りの視点を示したり、話し合いをリードしたりするなど、振り返りの質を高めるためのサポートも行います。

推進事務局がこのようなきめ細かい支援を行うことで、QCサークルは活発に活動を続け、メンバー自らが高い改善意欲を持って取り組むことができるようになります。サークルの自律的な活動を下支えし、着実に成果を生み出す推進力となるのが、事務局の重要な使命と言えるでしょう。

事務局こそ活用したい、QCサークル誌

QCサークル活動の推進と定着には、推進事務局自身のスキルアップも欠かせません。そのための有効なツールの一つが、月刊「QCサークル」誌です。ここでは、QCサークル誌の特徴と、活用のポイントを見ていきましょう。

推進者の学びの場として

QCサークル誌は、QCサークル活動に関する最新の情報や知見が満載の専門誌です。推進事務局にとって、自らのスキルを高め、活動推進の手法を学ぶための格好の教材となります。

誌面では、QCサークル活動の進め方や、QC的問題解決の基本的な考え方、各種の分析ツールの使い方など、推進者に必要な知識が体系的に解説されています。また、QCサークル活動の実践事例も数多く取り上げられており、他社の活動の工夫やポイントを知ることができます。優秀サークルの活動の様子を具体的に知ることで、自社の活動の改善のヒントを得ることができるでしょう。

事務局メンバーがQCサークル誌を定期的に読み込み、最新の手法や考え方を吸収することで、サークル支援の質を高めていくことが期待できます。

社内勉強会のネタ本として

QCサークル誌は、推進事務局が社内勉強会の企画・運営を行う際の「ネタ本」としても非常に有用です。誌面には、QCサークル活動の基礎知識から応用的な内容まで、幅広いトピックが取り上げられているため、勉強会のテーマ設定に困ることはないでしょう。

例えば、QC的問題解決の進め方やQC七つ道具の使い方といった基本的な内容は、新任のサークルリーダー向けの勉強会に最適です。また、テーマの選定方法や、改善効果の算出方法など、より実践的なテーマを取り上げることで、リーダー経験者のブラッシュアップを図ることもできます。

QCサークル誌の記事を題材にしてディスカッションを行えば、メンバーの主体的な学びを引き出すこともできるでしょう。他社の実践事例をもとに、自社の活動への適用可能性を議論したり、優秀サークルのプレゼンテーション資料を発表資料の参考にしたりするなど、QCサークル誌を使った様々な勉強会の展開が考えられます。

推進事務局は、QCサークル誌を単に読むだけでなく、社内勉強会で積極的に活用することで、サークルメンバーの学びを深め、活動の質を高めていくことができるのです。

以上のように、QCサークル誌は、推進事務局自身のスキル向上と、社内教育の充実の両面で有益なツールです。定期的に誌面に目を通し、効果的な活用方法を考えることが、QCサークル活動の推進力を高める近道と言えるでしょう。

QCサークル活動を取り入れている企業の事例

QCサークル活動を自社に根付かせ、成果を上げている企業の事例は、推進事務局にとって非常に参考になります。ここでは、QCサークルに取り組む企業の事例を紹介します。

製造業でのQCサークル活動事例

ビー・ユー・ジーDMG森精機株式会社は、2017年からQCサークル活動を開始しました。20サークルが週1回のペースで活動し、業務の効率化やミスの低減などに取り組んでいるそうです。さらに、毎年11月に行われるDMG森精機でのQCサークル発表大会でも発表を行っています。

部署の中でも比較的若い社員がリーダーを務めており、次世代のリーダー育成も期待して活動を行っているようです。

出典:北のいぶき 2022年度、QCサークル北海道支部

医療現場でのQCサークル活動事例

仙台医療センターでは、平成14年(2002年)からQCサークル活動を行っています。同院では、毎年院内でQCサークルの活動発表会を行っています。令和5年度(2023年度)では、院内事故の防止や患者満足度の改善などが受賞テーマとして挙がっています。

医療現場でのQCサークル活動事例は、さまざまな業種の改善活動でQCサークルが活用されていることを示しています。

出典:仙台医療センター QCサークル活動の紹介

他社の事例を手がかりに自社に最適な活動スタイルを追求していくことが、QCサークル活動の定着と発展につながります。

まとめ

本稿では、QCサークル活動を企業に根付かせ、継続的な成果を生み出すために重要な要素として、経営トップのリーダーシップ、中間管理職の理解と推進、そして推進事務局のサポートの3点を挙げ、特に推進事務局の役割に焦点を当てて解説しました。

品質は、日本の製造業が誇れるものであり、企業の競争力の源泉です。その品質を改善・維持するためのTQMの一つとしてQCサークル活動は重要な役割を担っています。

QCサークルの推進事務局は、活動推進計画の策定と実行管理、リーダー育成のための研修の企画・実施、社内発表大会の開催、活動マニュアルの整備など、活動の基盤を作る重要な役割を担っています。さらに、サークルの日常的な活動に寄り添い、きめ細かい支援を行うことで、サークルの自律的な改善を促していくことが求められます。

また、推進事務局自身のスキル向上と、社内教育の充実のためにも、月刊「QCサークル」誌がおすすめの書籍であることを説明しました。QCサークル誌は、推進者の学びを深める教材であると同時に、社内勉強会の企画・運営に役立つ情報源でもあります。

さらに、QCサークル活動に取り組む企業の実例では、製造業と医療業界での事例を紹介しました。製造現場だけでなく、さまざまな業種・職種でQCサークル活動が適用されていることが分かりました。

QCサークル活動は、単なる小集団改善活動ではありません。品質を基軸に、全社的に業務の質を高めるとともに、人材を育成していくための戦略的な取り組みです。推進事務局は、その中核的な役割を担う部門として、活動の推進エンジンとなることが期待されています。

トップのリーダーシップの下、中間管理職と推進事務局が連携してQCサークル活動を推進することが、活動を進める土台となります。本稿で紹介した具体的な方策を参考に、自社のQCサークル活動の推進につなげていただければ嬉しいです。

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