機械図面のスキャンに人手が必要な理由

2024.08.11

紙の機械図面をデジタル化する際に頭を悩ますのは「意外と人手がかかる」ということだろうと思います。しかし、それでもデジタル化した方が後々有利に働きます。

もっとも、そう分かっていても人手がかかる以上、目先のコストがかかるわけで、それが負担になる場合もあります。

ここでは、紙の機械図面のデジタル化に人手がかかる理由について考え、業者に依頼するメリットと自分でやるメリットについて紹介し、それでも紙図面をデジタル化するメリットについて考えてみたいと思います。

機械図面のスキャン

機械図面のスキャンは、図面の品質と精度を保ちながらデジタル化することが求められます。そのため、適切な機材と設定を選ぶ必要があります。

スキャナーの選択

A1やA0サイズの機械図面では、大判スキャナーが必要です。また、小さめの図面や部分スキャンには高解像度のフラットベッドスキャナーを使用します。

スキャン設定の調整

機械図面には細かい寸法や線が含まれているため、600dpi以上の解像度を設定することが推奨されます。また、通常、機械図面はモノクロで作成されているため、モノクロでスキャンするのが一般的です。ファイル形式は、精度を保つためにTIFFやPDF形式で保存するのが一般的です。

スキャンの実施

 図面が折れたり汚れたりしていないことを確認します。折り目やシワがある場合は、平らに伸ばすとスキャン品質が向上します。そして、スキャナーの上に図面をしっかりと配置します。ずれないように注意し、できるだけ真っ直ぐに配置します。そして、スキャンボタンを押して、設定に従ってスキャンを開始します。スキャン中は図面が動かないように注意します。

スキャン後の処理

専用ソフトで、スキャン後に必要に応じて画像の傾き補正やゴミの除去を行います。また、 スキャンされた図面が元の図面と同じ精度で保存されているか確認します。線の太さや寸法が正確に再現されていることが重要です。そのうえで、図面ファイルを適切なフォルダーに保存し、ファイル名に図面番号やバージョン情報を含めて整理します。

大きな機械図面がスキャン可能なスキャナーの価格

基本的な機能に特化した普及機

価格帯: 約30万円~70万円

特徴: 解像度は中程度(300-600dpi程度)で、A1またはA0サイズの図面がスキャン可能です。スキャン速度は比較的遅めで、使用頻度がそれほど高くない場合に適しています。

中級機

価格帯: 約70万円~150万円

特徴: 高解像度(600-1200dpi)で、スキャン速度も速く、品質が求められる用途に適しています。大量の図面を効率的に処理できるため、頻繁にスキャン作業を行う企業やオフィスに向いています。

高級機

価格帯: 約150万円~400万円以上

特徴: 非常に高い解像度(1200dpi以上)と高速スキャンが可能なモデル。色精度や細かいディテールの再現性が求められる専門的な用途に最適です。また、ネットワーク接続や自動ファイル処理機能など、業務用の高度な機能を備えています。

レンタル

価格帯: 月額数万円~数十万円

特徴: 一時的な需要がある場合や、購入する前に試用したい場合には、大判スキャナーのレンタルも選択肢となります。

中古品

価格帯: 新品の30%-70%程度の価格

特徴: メーカーの認定を受けた中古品や再生品も市場に出回っており、新品よりも安価で入手できます。ただし、保証期間やサポートが短いことが多いです。

中小製造業ではスキャンサービスを使うのも一つの方法

中小製造業ではスキャンサービスを利用することも非常に有効な方法です。大判スキャナーの購入や維持が負担となる場合や、スキャンの頻度がそれほど高くない場合には、特に有効です。

スキャンサービスのメリット

高価なスキャナーを購入する必要がないため、初期投資を抑えられます。また、メンテナンスやアップデートにかかる費用も削減できます。

また、スキャンサービス業者はプロフェッショナルな機材を使用しており、高解像度かつ高精度なスキャンを提供してくれます。特に、精密な機械図面の場合、業者の専門知識を活用することで高品質なデジタルデータを得ることができます。

さらに、必要なときに必要なだけスキャンを依頼できるため、業務のピーク時や特定のプロジェクトに合わせて柔軟に対応できます。大量の図面がある場合でも、短期間で効率よくスキャンしてもらえることが多いです。

そして、社内でスキャンを行うための人員や時間を割く必要がないため、本来の業務に専念できます。

近年、多くのスキャンサービス業者は、スキャンしたデータを整理・管理し、クラウドストレージに保存するオプションを提供しています。これにより、デジタル化された図面のアクセスや共有が容易になります。

自分でスキャンを行うメリット

初期費用としてスキャナーを購入すれば、長期的には外部サービスを利用するよりもコストを削減できる場合があります。特にスキャンの頻度が高い場合は、トータルコストで有利になることがあります。

また、いつでも必要なときにすぐにスキャンを行えるため、外部サービスに依頼する時間や納期を待つ必要がありません。特急対応が求められる場合や、突発的なスキャンが必要なときにも迅速に対応できます。

さらに、機密性の高い図面やデータを外部に出すことなく、社内で管理できるため、情報漏洩のリスクを低減できます。自社内でデータを保持することで、セキュリティ面の安心感もあります。

そして、自分でスキャン作業を行うことで、細かい設定や品質チェックができ、希望通りのスキャン結果を得ることができます。外部業者に依頼する場合よりも、柔軟に調整が可能です。

機械図面のレイヤーを認識するスキャンソフトは存在する?

機械図面のレイヤー(例えば、組み立て図と部品図の切り分け)を自動的に認識し、デジタルデータに変換するための専用スキャンソフトは、一般的には存在しません。

もっとも一部のOCRソフトでは、スキャンした図面からテキストや図形を認識し、レイヤーに分けることができます。そのため組み立て図と部品図の識別も可能ですが、完全自動化は難しいため、手動での修正が必要です。

また、3Dスキャンデータのリバースエンジニアリングに特化したソフトウェアも存在し、組み立て図や部品図を3Dモデルとして再現し、レイヤーごとに分割することができます。しかし、完全自動化には対応しておらず、2D図面に対しては手動処理が必要です。

いずれにしてもレイヤーを完全に自動的に認識するソフトは今のところなく、一回デジタル化したあとは、手動で作業する必要があります。

人手が必要な理由

複雑なデータ構造

機械図面には多くの詳細な情報が含まれており、異なるレイヤーや要素が複雑に組み合わさっています。これを自動で正確に分けるのは難しいため、手動での介入が求められます。

品質管理

スキャンデータの品質や精度を確保するためには、人手による確認と修正が必要です。特に重要なデータや詳細な部分については、手動でのチェックが欠かせません。

カスタマイズ

図面の内容や形式が異なる場合、自動化ツールでは対応しきれないことがあります。手動での対応により、特定の要件やカスタマイズに応じたレイヤー分けが可能です。

ソフトウェアの限界

現在のソフトウェアでは、自動的なレイヤー認識や分類の機能が限定的であり、多くの場合、手動での作業が必要です。

それでもスキャナーを使った方がいい理由

ミスの減少

スキャンデータをもとにデジタル化を行うことで、手書きのトレーサーが紙図面を見ながらゼロから入力する場合に比べ、ミスを減らすことができます。紙図面からのトレースでは、細かい部分の見落としや入力ミスが発生する可能性がありますが、スキャンデータを使うことでそのリスクを軽減できます。

作業スピードの向上

スキャンを利用することで、大量の図面を短時間でデジタル化できます。紙図面の手動トレースに比べて、スキャン後のデジタルデータを編集する方が、全体の作業スピードが速くなります。スキャンデータは一度デジタル化すれば、複数回利用することができ、効率的な作業が可能です。

データの一貫性

スキャンによって取得したデジタルデータは、統一されたフォーマットで保存されるため、データの一貫性を保つことができます。手動でのトレースでは、作業者によって仕上がりが異なる可能性がありますが、スキャンを使用することで、標準化されたデータを得ることができます。

編集と修正の柔軟性

デジタル化されたデータは、後から容易に編集や修正が可能です。図面の更新や変更があった場合、紙の図面を再度トレースするよりも、デジタルデータを修正する方が効率的です。

デジタルデータの活用

デジタル化されたデータは、他のCADソフトウェアやデータベースと統合して利用することができます。これにより、図面の検索、共有、管理が容易になります。

(まとめ)可能な限り紙図面をデジタル化しておきましょう

以上、紙の機械図面のスキャニングについて見てきました。

紙図面のスキャンとデジタル化は、紙図面を手動でトレースするよりも、ミスの削減、作業スピードの向上、データの一貫性、編集の柔軟性、デジタルデータの活用といった点で多くのメリットがあります。もっとも、スキャン後の手動作業が完全に不要になるわけではなく、デジタルデータの精度を確保するためには、一定の手作業が依然として必要です。

実際には紙図面のスキャニングまでは外部の業者に依頼し、スキャニングされたデータを、CADシステムで認識できるベクター形式に変換するところから、部品レイヤーごとに切り分ける作業までをCADシステム上で、人の手で行うのが現実的と言えるでしょう。

「図面バンク」はデジタル化された図面を効率よく管理する、シンプルで使いやすい図面管理システムです。是非一度体験してみてください。