設計業務の特性と改善の歴史~図面管理の観点から考える

2024.02.11

製造業ではよく「設計」という言葉を使います。しかし、「設計」とは単なる図面作成ではありません。また、近年のデジタル技術の活用により、設計業務の効率化が飛躍的に高まっています。ここでは、「設計」の定義や意味を考えながら、設計効率化の歴史を紹介し、図面管理の観点から具体的な設計効率化のやり方を考察し、最後に、これからの設計業務のありかたについて考えてみたいと思います。

設計とは

「設計」とは、「設計は、問題解決や目標達成のために計画的かつ創造的に物事を考え、構想し、実現するプロセス」です。つまり製品に求められる性能やニーズを実現するために「考え、検討する」ことです。

よく間違えられるのは、図面を書くことが設計と勘違いされますが、設計の本質は「考える」ことです。その思考作業や成果の表現として「図面」があります。したがって、図面を書くことそのものが設計作業のすべてではなく、「図面書き」以外の設計作業もあるということです。

もっとも、そのような作業の成果も最終的には「図面」に落とし込まれます。したがって、他のコラムでも強調しているように図面は「設計作業」の成果として、製造業では大変重要な文書です。

研究・開発との関係

小さな製造業では研究開発と設計作業がリンクしています。つまり、顧客からのニーズに応じて研究開発が行われ、その研究開発の成果を設計作業で図面に落とし込むということが行われます。つまり、開発や研究の成果を理解する必要があります。

製造との関係

製造現場では、実際にモノを作っています。そうした中で、現場には、「工夫・知恵」がいっぱい転がっています。また、製造現場から設計に「こうしてくれないか?」とか「こうやった方がいいのでは?」という要求がたくさん上がってきます。

そうした、製造現場の「声」を拾って、検討し、図面に反映させることも設計業務の一つです。

営業・ユーザーサポートとの関係

営業やユーザーサポートは顧客に最も近い所にいる人たちです。特にユーザーサポートは、顧客のニーズや自社の製品のクセを良く知っています。また、顧客の要求する本質的な部分は「ニーズを満たし、コストが安いこと」ですから、営業は強いコスト意識を持っていることが多いです。

そのため、これらの部署の人たちとの対話を通じて顧客のニーズを知り、コストを下げる努力が設計業務には求められます。

設計業務の特性

こうしてみると、設計業務は他の部署とのコミュニケーション能力が重要ということになります。設計は「一日中CADとにらめっこ」と思っている人にとっては意外かもしれません。

実際に、顧客への提案は技術部門が同行することが多く、同行する技術部門の人は設計業務を担当している人(機械設計者が多い)がほとんどです。

つまり、設計は、製造業の活動の中心にいて、様々な情報をやり取りしながらその情報を取捨選択して活動の成果として図面に落とし込んでいる「製造業の要」と言える業務です。

そのため、設計業務の効率化を図り、本来的な「設計」である「考える」時間をできるだけ作り出すことは、多様な製品を生み出し、製造業の競争力向上に直結します。

設計効率化の歴史

それでは、設計効率化の歴史をたどってみましょう。

産業革命以前

産業革命以前は、文字通り職人が手作業で一品一品経験と勘で製品を作っていました。そのため、基本的には「設計作業」は、職人の頭の中だけで行われていました。しかも、多くの場合、そのノウハウを表に出すということはなく、徒弟制度もしくは「一子相伝」の中で受けつがれてきました。

したがって、「図面」というのも基本的には存在せず、あっても部分的なものでした。いまから思うと、のどかな時代です。

産業革命

産業革命がおこり、質のいい製品が安く大量に売れるようになると、製造業の業務は分業制になっていきます。つまり、仕事量が増大し、そこで働く人たちが多くなると、職人の徒弟制度な方法では生産力が間に合わなくなってきました。

そのため、阿吽の呼吸で行っていたコミュニケーションを客観的で具体的な方法で行う必要が生じてきました。そこで、製品や部品を文書で表すようになりました。これが「図面」です。

さらに、この図面作成を行う専門の技術者が登場してきました。これが「設計業務」の始まりです。これにより、いままで、職人の頭の中で完結していた「製造」や「設計」を多数の人が協力して行えるようになりました。

標準化

時代が下り、さらに製造業が増えると、製品の種類が増え、多様な製品が生み出されるようになりました。このため、人手、特に「設計業務」に係わる技術者が不足してきました。また、多様な製品を設計する過程で、複数の種類の製品で同じ部品を使うことが多くなってきました。

このため、よく使う部品を性能や仕様を共通化して、みんなでこれを積極的に使うようにしました。これを「標準化」と言います。

標準化は当初自分の会社の中だけで行われていましたが、次第に違う会社間であっても行われるようになり、「規格」に進化していきました。規格は今でも設計の手間やコストの削減に寄与しています。

また、図面の書き方も規格化され、外注する方もされる方もスムーズな製造が可能になっています。

CADの登場とデジタル化

日本では、今から20年~30年くらい前に設計業務の一大革新が起きます。CADの登場です。

CADはご存じの通り、まず図面作成業務を飛躍的に効率化しました。そして、強度計算機能や干渉チェック機能などを追加し、今まで手間と時間がかかっていた設計業務全体を効率化しました。そのため、CADは爆発的に普及し、今では当たり前のシステムになっています。

また、CADは図面管理を電子化し、紙による図面管理の煩雑さを解消しました。現在では、設計業務を行う上で必要な様々な情報が素早く検索できるように進化し、製造工程全体の最適化に大きく寄与しています。

つまり、CADの登場は現在盛んに叫ばれている「製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)」の最初と言えるものです。

インターネットと人工知能

製造のデジタル化が進むと同時にインターネットが普及し、関係会社間での取引に利用されるようになりました。図面も電子出図で発注先に電子データで図面を送付するようになりつつあります。

また、近年では、図面の検索や図面管理にAI(人工知能)が用いられるようになってきています。いずれ、AIが人間との対話によってもっと高度な設計業務を支援するようになるかもしれません。

設計効率化の実際

それでは、現実的な設計業務の効率化を見ていきましょう。

CADの有効利用

まず、CADを単なる「お絵描きソフト」ではなく、もっと有効に使って、図面作成業務を効率化できるはずです。

近年のCADは作図以外にも様々な機能がついています。これをフル活用して、図面作成の効率をより上げることが求められます。なぜなら中小企業ではCADの機能をフルに使っていない場合も多いからです。

工夫して、CADソフトのポテンシャルを最大限引き出すようにしましょう。

ノウハウの共有と現場主義

工夫の結果、CADソフトをうまく使うノウハウを見つけたら、他の人にもそれを伝え、情報交換を通じて、ノウハウを共有しましょう。

また、基本的なことですが製造現場に足を運んで現場の声を拾い、営業の人とコミュニケーションを取って、情報収集をしっかりと行いましょう。

中小企業に特に必要な設計効率化は図面管理

過去に蓄積された図面はアイデアや発想の宝庫です。設計に行き詰ったら、過去の図面を参照して解決することも時間の節約になります。場合によってはその図面に修正を加えずにそのまま使えることもあります。

そのためにも、蓄積された図面をしっかり管理し、素早く検索をかけられるようにしておくことも、特に中小企業では重要です。

これからの設計業務

最後に、設計業務がこれからどうなっていくかを少し考えてみたいと思います。

まず、CADにはじまるデジタル化が今後も継続して続いていくと考えられます。例えば今までであれば、図面を起こし試作を行い評価して、その結果を図面にフィードバックしていた作業をすべて、コンピュータ上で行うことが出来るようになるのではないかと考えられます。

また、環境配慮型の設計も重要となってくるでしょう。さらに、設計に携わる人の働きやすさも考慮する必要があります。

しかし、設計は、その業務を取り巻く環境が変わっても生産活動の中心にあり、大変重要な役割を果たしていくことは変わらないと思われます。

(まとめ)設計業務は製造業の要となる重要な業務です

以上、「設計」業務について見てきました。設計は単なる図面の作成ではなく、かなり高度な知的作業であることをご理解いただけたと思います。つまり、製造現場の発想や顧客のニーズ、採算、研究開発の成果などを取り込みながら進めていく必要のある「製造業の要」ともいえる業務です。

また、設計業務はその特性から、かなり昔から効率化の模索が進められてきました。そして、その姿は長い歴史の中で変貌を遂げ、近年ではCADやインターネットを始めとしたデジタル化によって、より高度なものとなっています。

そして、デジタル化の波は会社の大小にかかわらず押し寄せています。小さな会社であっても、「製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)」を進めていくことが望まれているのです。

「製造業DX」の一歩として「図面バンク」の導入をお考え下さい。きっとお役に立てると思います。