製造現場の改善と会社全体の業務改善の関係

2024.03.29

製造業の業務改善としてよくあるテーマは「現場の業務改善」です。具体的には「5S」や「QCサークル」といったテーマです。これらのテーマは古くて新しいものですが、会社全体の効率改善と製造現場の業務改善の関係について考えたことがあるでしょうか。ここでは、製造現場の業務の特徴と求められること、会社全体の効率改善の意義について解説し、製造現場の改善と会社全体の業務改善の関係について述べます。

製造現場の特徴

製造現場は、図面や作業指示書をもとに実際に製品を作る現場です。そして「ものづくり」の原点です。また、優秀な設計者・研究者・営業マンほど製造現場に良く出入りしている傾向があり、ものづくりのヒントがたくさん転がっている場所でもあります。

製造業務の特徴は「図面に書かれた部品・製品を作業指示書どうりの作業で正確に、効率よく、ミスなく、納期どおりに」作る業務です。

そう書くと「ロボットや機械で代行した方が正確で効率よく製造できるのではないか?」と思うかもしれません。事実、装置組み立てを除けば、製造ラインの自動化は進んでいますし、その究極の姿が、生産ラインや製造装置自体を知能化する「スマートファクトリー」という考え方です。

「スマートファクトリー」までくると、人手よりも機械の方が製造工程の主役で、人間は機械ができない作業や、機械自体にトラブルがあった場合の対応に特化していくことになります。

また、簡単な部品や、大量生産が可能な製品の生産は、人件費の安い外国に移っていく傾向があります。

製造業務に求められること

それでは、これから製造業務に係わる人に求められるものは何でしょうか?

生産ラインの自動化やスマートファクトリー化が進むと、「職人芸」的な技能はあまり必要とせず、もっと頭を使った業務が増えてくるはずです。

例えば、職人的な徒弟制度で技術を「体で覚える」というよりも、もっとシステマティックに「考え・理解して」技術を伝承していく必要があります。

製造業務の具体的な性質

それでは、製造業務の具体的な性質を見ていきましょう。

製造業務は設計の後工程

製造業務は、設計や購買の後工程です。設計により図面が作成され、購買によって部品が調達されないと、業務を進めることが出来ません。そのため、設計や購買の作業に遅れが生じると、製造工程にしわ寄せが来ます。

そして多くの場合、プロジェクトの遅れは製造工程によって吸収されるので、製造の人たちは常に「納期」というプレッシャーと闘っています。このため、「根性」というか「メンタルの強さ」が要求されます。

製造業務は接客業

すでに述べたように、製造現場には様々な人がやってきます。設計の人、営業の人、あるいは「偉い顧客」(笑)などです。

このような人たちと適切にコミュニケーションをとり、情報を交換することで、納期の調整をしたり、技術的な詰めを行ったりするのです。このため、現代の製造現場は黙々と作業をするというよりも、同僚を含めた周囲の人たちとコミュニケーションを取りながら進めていくというスタイルに変化してきています。

製造現場というと「ただひたすら作業に打ち込む」というイメージが強いですが、コミュニケーションを通して、お互いの経験や知恵を積極的に交換し「知」の力を高めることで現場作業の効率を上げていくのがこれからの製造現場の業務改善のスタイルです。

なお、このような考えで行くと、「秘密主義」は良くないということになります。「秘密主義」というのは、個人の経験を自分だけのものにして、他人にそのノウハウや知恵を教えないことです。職人肌の技能者に多くいるタイプです。

このような職人肌の技能者は自分も「仕事は見て盗むもの」という昔ながらのスタイルで技術を習得してきました。そして、その努力は称賛に値するものです。しかし、現代の経営状況は、そんなのんびりしたことを許しません。

秘密主義を排して積極的にノウハウを共有していきましょう。

製造業務は職人仕事

一方で、ものづくりには必ず「勘所」というのがあります。この勘所は言葉や映像で伝えることが出来ず、実際に「作って・失敗して・工夫して・また作る」という繰り返しの中で覚えていくしかありません。そして、習得には長い時間がかかります。これが「職人仕事」の本質です。

もっとも製造業務のすべての作業がこのような「職人仕事」か、というとそうではありません。また、今まで「職人仕事」とされてきた作業でも科学的なメスが入ることによって自動化・単純化され「単純仕事」となっていくのもあります。

大切なのは、人間にしかできない「職人仕事」と単純化・自動化できる「単純仕事」を切り分けて、適切に使い分けることです。

そして、人間にしかできない「職人仕事」を次世代の人にうまく継承しつつ、効率を上げていくことが、製造業務の効率化にとって重要な要素となります。

製造業務の改善と会社全体の効率改善の関係

ここで、製造業務の改善と会社全体の効率改善の関係について簡単に述べます。

部分最適と全体最適

製造業務の改善は、一見すると確かに会社の利益を向上させ、業績の改善に寄与しますが、製造業務だけが改善すればいいという問題ではありません。

別の言い方をすると、製造業務が改善するためには他の業務が犠牲になっても構わないというものではありません。これは、営業業務の改善や、設計業務の改善についても同様のことがいえます。

一方、特定の業務だけの改善活動のことを「部分最適」、会社全体の改善活動のことを「全体最適」といいます。つまり、製造業務だけの改善活動を「部分最適」、会社全体の改善活動のことを「全体最適」といえます。

会社の最終利益は社員全員の頑張りの結果です。したがって、会社の利益の直接の源泉は「全体最適」にあると言えるでしょう。したがって、いくら製造部門だけが頑張っても他の部門の効率が悪ければ利益は減少してしまうのです。

これが部門間の対立を生み、会社の求心力が低下する原因となるのです。べつの言い方をすれば、各部門が足並みをそろえて改善活動に取り組まなければ、利益は出ず給料は上がりません。これでは社員のやる気も起きません。

カイゼン・ヨコテン

一方で、特に長い歴史を持った企業では、製造現場の発言力が強い場合があります。また、長年培われた現場の「知恵」があります。これを他の部署でも導入・応用することができれば、製造現場に足並みを合わせて全社で改善活動ができるようになるはずです。これが「ヨコテン」です。

トヨタ自動車が「日本最強の企業」と呼ばれるのは現場主導の「カイゼン」活動を絶え間なく「地道」に行っているからです。そして、コミュニケーションを通じて「ヨコテン」を行い、部署を超えた「知」の共有を行っているのです。

私たちはトヨタのような大きなことはできないかもしれません。しかし、利益をあげ会社を維持・発展させるために、製造現場での「部分最適」の経験を、コミュニケーションで伝えることで「ヨコテン」をおこない、会社全体の業務改善である「全体最適」につなげていくことが重要なのではないでしょうか。

(まとめ)これからの製造現場の改善活動は全体最適を意識して

以上、製造現場の改善活動と会社全体の業務効率の改善について見てきました。製造業務は会社全体の一部門にすぎませんが、大変重要な業務で、その業務の中で培われてきた「知」は会社全体の業務を改善する可能性を持ったものが多くあります。昔から多くの製造業で「現場主義」が大切と言われてきた理由の一つです。(なお、ここでいう「現場」とはもともと「製造」現場のことを指します)

このため製造業務以外の部署の人たちは、製造部門の人たちの話をよく聞き、しっかりコミュニケーションを図る必要があります。また、製造部門の人たちもコミュニケーション能力を磨き、外の部署の人たちとの交流をもっと進める必要があります。

近年では、ITツールの発達によりコミュニケーションがより容易に正確にできるようになってきています。これらのツールを最大限有効利用し、緊密なコミュニケーションを行うことで「知」が共有され、会社全体の「全体最適」が達成されるのです。

「図面バンク」は会社に蓄積された「知」の一つである「図面」を活用するITツールの一つです。会社全体の「全体最適」を達成するために、有効にご活用ください。

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