製造業のSaaSとは?代表例と内製との使い分け基準を解説
2026.09.30

「SaaS(サース)」という言葉をよく聞くようになったけれど、正確な意味はわからない——そんな方に向けた記事です。
SaaSとは、インターネット経由で「借りて使う」ソフトウェアのこと。製造業向けSaaSとは、生産管理・現場帳票・図面管理といった製造業の業務に特化して提供されるSaaSを指します。
本記事では、SaaSの基礎知識とオンプレミスとの違い、製造業で導入されている代表的なSaaS、導入のメリット・デメリットを整理したうえで、「どの業務を内製し、どの業務をSaaSに任せるべきか」という判断基準まで解説します。SaaSの導入を検討している中小製造業の経営者・工場管理者の方は、ぜひ参考にしてください。
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SaaSとは?オンプレミスとの違いをわかりやすく解説

SaaSの定義:インターネット経由で「借りて使う」ソフトウェア
SaaS(サース:Software as a Service)とは、インターネット経由で利用するソフトウェアのことです。ソフトウェアを買い切って自社のサーバーやパソコンにインストールするのではなく、サービスとして「借りて使う」形態を指します。
従来のオンプレミス(自社運用)型との違いは、次のとおりです。
・オンプレミス型:自社でサーバーを購入し、ソフトウェアをインストールして運用する。初期費用が大きく、保守・アップデートも自社の仕事
・SaaS型:ベンダーが運用するサーバーに、ブラウザやアプリでアクセスして使う。月額・年額課金で、保守・アップデートはベンダーの仕事
身近な例では、GmailやMicrosoft 365、ZoomがまさにSaaSです。「購入する形ではなく、IDとパスワードでログインして使うソフト」と考えると、イメージしやすいのではないでしょうか。
IaaS・PaaSとの違い
SaaSと似た言葉に、IaaS(イアース)・PaaS(パース)があります。違いは「どこまでを借りるか」です。
| 用語 | 借りる範囲 | 例 |
|---|---|---|
| IaaS | サーバーなどのインフラのみ | Amazon EC2 |
| PaaS | インフラ+開発環境 | Azure App Service |
| SaaS | ソフトウェアまるごと | Gmail、図面バンク |
製造業のユーザーが直接触れるのは、ほとんどの場合SaaSです。IaaSやPaaSは、ソフトウェアを自社開発する場合の「材料」と考えれば十分です。
製造業でSaaSが注目される背景
製造業でSaaSが広がっている背景には、次の3つがあります。
・人手不足:製造業の就業者数は長期的に減少傾向にあり、間接業務に人を割く余裕がなくなっている1
・IT人材の不足:情報システム部門を持たない中小製造業では、サーバーの構築・保守を担える人がそもそもいない
・DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進:紙とExcelによる属人的な管理から、データを資産として活用する体制への転換が求められている
クラウドサービスを利用する企業はすでに8割を超えており2、「クラウドはうちにはまだ早い」という時代ではなくなりました。特に中小製造業にとって、「専任のIT担当者がいなくても導入・運用できる」ことがSaaSの現実的な価値です。
製造業で導入されているSaaSの種類と代表例

ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaS
製造業で使われるSaaSは、大きく2種類に分けられます。
・ホリゾンタルSaaS:業種を問わず使える汎用型。会計(freee、マネーフォワード)、勤怠管理、グループウェアなど
・バーティカルSaaS:特定の業界に特化した専門型。製造業なら生産管理、図面管理、現場帳票など
ホリゾンタルSaaSはすでに多くの企業で当たり前になりました。一方、製造業の業務には特有の型が多く、汎用ツールでは手が届かなかった領域に、近年は製造業特化のバーティカルSaaSが次々と登場しています。
業務カテゴリ別の代表例(生産管理・在庫管理・図面管理など)
製造業向けSaaSの主なカテゴリと代表的なサービスを整理します。
| カテゴリ | 何を解決するか | 代表的なサービス例 |
|---|---|---|
| 生産管理 | 生産計画・工程・原価の一元管理 | スマートF、TECHS-S NOA |
| 在庫・倉庫管理 | 在庫の見える化、棚卸の効率化 | ロジザードZERO |
| 現場帳票・品質管理 | 紙のチェックリストの電子化 | カミナシ |
| 図面データ活用 | 図面データに基づく調達・見積業務の効率化 | CADDi(キャディ) |
| 図面管理 | 図面・技術文書の一元管理と検索 | 図面バンク |
「SaaS カオスマップ」と呼ばれる業界地図では数百のサービスが整理されています。上の表では、その中でも製造業で使われるSaaSの主要カテゴリをまとめました。
どのカテゴリから導入すべきか
結論は「紙とExcelで一番困っている業務から」です。
SaaSは初期投資が小さいため、全社一斉導入ではなく、1つの業務からのスモールスタートができます。例えば「図面を探すのに毎回時間がかかる」なら図面管理から、「紙の日報・チェックシートの転記が負担」なら現場帳票から、という順番です。効果を実感してから隣の業務に広げるほうが、現場の抵抗も小さくなります。
なお、「そもそもその業務はSaaSに任せてよいのか、自社で作り込むべきなのか」という一段手前の判断基準は、記事の後半で解説します。
製造業がSaaSを導入するメリット
初期投資を抑えてすぐ始められる
オンプレミス型のシステム導入では、サーバー購入とソフトウェア開発で数百万円規模の初期投資が珍しくありません。SaaSはサーバーも開発も不要で、月額数万円程度から始められます。
「まず1部署で試し、合わなければやめる」という撤退のしやすさも重要です。導入が失敗したときに失うものが小さいことは、初めてITツールを入れる会社にとって大きな安心材料になります。
保守・アップデートが不要(IT担当がいなくても回る)
SaaSでは、サーバーの監視・障害対応・セキュリティ更新・機能追加をすべてベンダーが行います。自社でやることは「使うこと」だけです。
これは単なる手間の削減ではありません。SaaSベンダーでもあるPTC社の調査では、企業のIT部門の68%が「新しい戦略の支援」ではなく「既存システムの維持・保守」に多くのリソースを費やしていると回答しています3。オンプレミスのシステムを増やすほど、貴重なIT人材が保守要員になってしまうのです。IT担当が1人もいない中小製造業なら、なおさら「保守をベンダーに任せられる」価値は大きいといえます。
場所・端末を選ばず使える
SaaSはインターネットにつながれば、工場・事務所・外出先のどこからでも使えます。多拠点の工場で同じデータをリアルタイムに共有したり、営業先で図面や在庫を確認したり、といった使い方が標準機能で実現します。PC・タブレット・スマートフォンに対応するサービスが多く、現場に端末を置く運用とも相性が良いです。
製造業がSaaSを導入するデメリット・注意点
長期のランニングコストは必ずしも安くない
「SaaSは安い」と言われがちですが、正確には「初期費用が小さい」というのが実態です。月額課金は使い続ける限り発生するため、長期間の総額ではオンプレミスを上回ることもあります。先ほどのPTC社のレポートも、導入費・研修費などの変数が多く、SaaSがオンプレミスより本質的に安いとは限らないと指摘しています。
判断基準は月額課金の大小だけでなく、「保守の手間をベンダーに任せられること」「常に最新版を使えること」まで含めた総合的な価値で考えるべきです。
カスタマイズの自由度には限界がある
SaaSは多数の企業で共同利用する前提のサービスであるため、自社の特殊な業務フローに合わせた作り込みは基本的にできません。
このデメリットには、発想を変えて対処する方法もあります。「システムを業務に合わせる」のではなく、「業務をシステムの標準機能に寄せる」という発想です。SaaSの標準機能は多くの企業の業務の共通項から設計されているため、自社の業務のほうが特殊すぎるなら、業務側を見直すきっかけとも捉えられます。
セキュリティは「ベンダー任せ」にしない
「クラウドにデータを預けるのは不安」という声は今でも聞かれます。しかし、主要なSaaSベンダーの多くはISO27001などの第三者セキュリティ認証を取得しており、中小企業が単独で同水準の管理体制を築くのは容易ではありません。クラウドだから危険、という認識は正確ではありません。
一方で、ID・パスワードの管理、退職者のアカウント削除、閲覧権限の設定といった「使う側のルール」は自社の責任です。ベンダーのセキュリティ水準(通信の暗号化、セキュリティ認証取得の有無など)を確認したうえで、自社側の運用ルールをセットで整えましょう。
内製すべきソフトウェア・SaaSに任せるべきソフトウェアの判断基準

判断軸は「自社の競争力の源泉かどうか」
ソフトウェアを自社専用に作るべきか、SaaSに任せるべきか。なお本記事では、自社開発だけでなく外注によるカスタム開発も含めて「自社専用に作ること」を内製側として整理します。
筆者が考える判断軸はシンプルで、「そのソフトウェアが自社の競争力の源泉かどうか」です。
・競争力の源泉になる領域 → 内製・カスタム開発で独自性を守る
・どの会社でも共通の「型」がある業務 → SaaSに任せて、人と時間を本業に回す
お金と人材には限りがあります。全部を内製する体力は大企業にもありません。「守るべき独自領域」と「借りて済ませる共通領域」を切り分けることが、製造業のIT投資の要点です。
内製・カスタム開発が向くソフトウェア
内製が向くのは、自社のノウハウそのものがコードになる領域です。
・自社設備の制御ソフトウェア:加工条件やレシピ、装置の制御ロジックは、製品品質を左右する門外不出のノウハウ
・独自工程のシミュレーション・計算ツール:長年蓄積した設計基準や計算式は、他社にない資産
・自社製品に組み込むソフトウェア:製品の差別化に直結する領域
これらを外部のパッケージに合わせてしまうと、せっかくの独自性が「どの会社でも同じ」水準に均されてしまいます。
SaaSに任せるべきソフトウェア
一方、SaaSに任せるべきなのは、業務の型が業界共通の領域です。
・図面管理・文書管理:「図面を登録し、検索し、版を管理する」という業務の型は、どの製造業でもほぼ同じ
・生産管理・在庫管理:業種による違いはあるものの、専門SaaSが業界の共通項をカバーしている
・会計・勤怠・給与などの管理業務:法制度に沿って処理する業務であり、独自性を出す意味が少ない
これらを内製しても競争力にはなりにくく、完成後の保守負担だけが残り続けます。「15年前に作られた独自のマクロを、作った担当者が退職して誰も直せない」という話を社内で聞いたことはないでしょうか。同じようなことがSaaSを使わないことで発生しうるのです。
共通業務は専門のSaaSに任せ、自社のリソースは製品と技術に集中させる。これが、限られた人員で戦う製造業の合理的な選択です。
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まとめ
SaaSとは、インターネット経由で「借りて使う」ソフトウェアのことです。初期投資が小さく、保守・アップデートをベンダーに任せられるため、IT専任者のいない中小製造業でも導入・運用できます。生産管理・現場帳票・図面管理など製造業特化のバーティカルSaaSが充実してきた今、紙とExcelで一番困っている業務からのスモールスタートが現実的な第一歩です。
IT投資の判断軸は「競争力の源泉は内製で守り、共通業務はSaaSに任せる」。図面管理はSaaSに任せるべき業務の典型です。図面バンクは初月無料で始められますので、この機会にぜひお試しください。
- 出典:経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2024年版ものづくり白書」 ↩︎
- 出典:総務省「令和7年通信利用動向調査」 ↩︎
- 出典:PTC「Why Manufacturers Are Switching to SaaS」(2022) ↩︎

